【IT見栄講座】

第1講:『IT革命の本質』

 いきなり総まとめのような題目で、最終回かと思われそうですが(誰も思わないか)、何にしても読者のみなさんが最も知りたいのはここだと思うので、最初にこれについての概論からお話ししてしまおうと思います。詳しい話や技術的な話は後回しです。なにしろこれは「見栄講座」なんですから。

 さて、「IT革命」を理解するためには、当然「IT」について知らなくてはなりません。「IT」は「イット」ではなく「アイ・ティー」と読み、「Information Technology」の略です。日本語では「情報技術」と訳すのが一般的なようです。
 ふむ、「情報技術」とは何でしょうか。「情報」の「技術」。なんじゃそりゃ、ですね。あまりにも漠然としていて、つかみ所がありません。どんな経緯でこの言葉が定着したのか私は知りませんが、これを使い始めた人は要するに、コレが言い表そうとするモノの進歩と変化が非常に速く、先々どこにどんな風に波及して行くか予想出来ないため、どうなったとしてもとりあえず齟齬をきたさないような漠然とした言葉をわざわざ使ったのだと思います。しかし私にはそんな配慮は必要ありませんから、あくまでも今現在の時点での「IT」が指すモノについて大雑把に決めつけた言い方をしてしまいます。それはすなわち、「デジタル化した情報がネットワークで流通すること(とそれに関する技術)」です。
 ここで言う情報とは、最終的には全ての情報であるわけですが、とりあえず現時点では、従来紙に書いたり印刷したりして書類や書籍として扱われていた情報のことです。それに加えて絵とか写真とか音楽とか映画(動画)とかも含めて扱えるようになって来たというので「マルチメディア」という言い方が流行したりもしましたが、それはそれとして、やはり経済社会で重要視されるのはまず文字や数値などの情報です。それらはつまり、商売に関する伝票や帳簿やカタログであったり、個人に関する戸籍情報や病院のカルテや資産の情報であったり、毎日のニュースや新聞記事であったり、学術に関する資料や論文であったり、各種のチケットやクーポンであったり、今誰がどこにいるのかという報告メモであったり、とにかくそういった諸々の情報です。そして、それらの情報がデジタルデータとしてネットワークを通してやりとりされ、コンピュータで処理されたり記録されたり蓄積されたり、はたまたその結果がまたネットワークを通して他へ送られたりといったことが、今現在の時点でのITの本質であると言えます。

 では、それによってどんな「革命」が起きるというのでしょうか。
 情報がデジタル化されてネットワークでやりとりされるようになると、そうでない時と比べて以下のようなメリットがあります。

・地理的、時間的なロスの解消
・情報量的な制約の緩和
・自動処理の実現

 地理的、時間的なロスの解消というのはつまり、ある情報を100メートル先に伝えるのには数分で済むが、別の県に伝えるには一日、地球の裏側まで伝えるには一週間かかる、というような格差がなくなるということです。デジタルデータをネットワークでやりとりする場合は、相手先が隣のビルでも地球の裏側でも、基本的には一瞬の時間しかかかりません。これは例えば、商売相手や取引先が遠くにいる場合のデメリットを非常に小さくしてくれます。ということはつまり、各所に代理店を開いたり人員を派遣したりしなくても、世界中を相手にした商売や取り引きが可能になるということです。消費者の側から見ると、何かを通販で買う場合に世界中の店から選ぶことが出来たり、銀行へ行かなくても即座に預金残高の照会が出来たりということになります。
 情報量的な制約の緩和というのはつまり、伝票を百枚やりとりするのも一万枚やりとりするのも大して手間と時間が変わらなくなる、ということです。注文の内容を電話でやりとりするのと違って間違いが起きにくいとか、莫大な量の情報(従来の書類)を蓄積、保存しておくのに大して場所を取らないということでもあります。一日に百枚程度の伝票や書類をやりとりするのなら、電話やFAXを使うことで地理的、時間的なロスをかなり低減出来ます。しかし、一日に一万枚となるとそうも行きません。デジタルデータとネットワークの出番です。これはすなわち、大規模な設備や人員を用意しなくてもかなり大量の情報を扱えるということになります。
 自動処理の実現というのはつまり、そこに誰もいなくてもとりあえず注文を受け付けておいたり、それに合わせた見積もりをその場で提示したり、届いた伝票をそのまま集計したり出来るということです。もちろん最終的には人間が確認、決済しなくてはなりませんが、届いた書類の内容を人間が書き写したり打ち込んだりして処理する必要がないため、人為的なミスが起きる可能性を大幅に減らすことが出来ます。ということは、少ない人員で大量の情報を処理出来るわけで、量的に大きなビジネスをとても低いコストで運営出来るということになります。はたまた、商売の24時間稼働を実現するのが容易になるというメリットもあります。客の注文に応じた情報を提供するというような、自動処理によるサービスそのものを商品とすることも考えられます。少し前に「ドットコム・ベンチャー」だとか言ってインターネット上での情報サービスを提供する会社を中心とした、かなりバブリーな新興企業ブームがありましたが、それもこの辺りの考え方から来ているわけです。
 そして、これらをはじめとする数々のメリットや効果、各種の相互作用によってもたらされる経済構造や社会基盤の大幅な変化、そこから来る従来型の企業や考え方の衰退、さらに新たなビジネスチャンスの誕生などを称して、「IT革命」ということになります。

 ここまでで何となく感じられた読者もいらっしゃると思いますが、ごく乱暴な言い方をしてしまえば、IT革命がもたらす変化というのは各種の制約の破壊に他なりません。企業にとっては商売の、消費者にとっては受け取る商品やサービスの、量や質、形態、規模、その他諸々が非常に自由になるということです。ということは、これまで何らかの制約、たとえば「この辺りには他に同種の店がないから」とか、「長年これでやって来て、客も今さら変えたがらないから」とか、そういった「既得権」を拠り所とした商売が成り立たなくなるわけです。企業が利益を得るためには新たに、客を引きつける何らかの魅力や付加価値が必要になって来るということになります。
 「こりゃ、大変な時代になっちゃったな」「零細企業は生き残れないんじゃないの」と思われるかもしれません。しかし、思い出してください。IT革命は、企業が客に対して新たなサービスや付加価値を提供する時に足かせとなる地理的、時間的、量的な制約をも、気持ち良く破壊してくれているのです。つまり、アイディアや見識さえあれば、零細企業でも大企業と同じサービスや付加価値を客に対して提供出来るということになります。「ボーダーレスの時代」という言葉が流行したこともありました。これはつまり「垣根や制約のない時代」という意味です。商売や文化の国際化や業種間の規制の撤廃などを指す言葉でもありますが、ITの進歩による各種制約の破壊を含めて言われることもよくあります。もちろん大企業が大きな資本を動かしてこそ可能になるという部分が全くなくなるわけではないでしょうが、それを言うなら中小企業ならではという部分も厳然と存在するわけです。本当の意味で「腕次第」の時代になりつつあると言えるでしょう。
 旧来、出来たばかりの小さな企業というのはとにかく危ういだけもので、これから地道に少しずつ実績を積んで信用を獲得し、一歩一歩時間をかけて市場を広げ、やがて一人前の企業へと発展して行かなくてはならない、というのが常識でした。しかし昨今では、新しいく小さい企業は「ベンチャー企業」などと呼ばれてもてはやされ、実際にそのうちのいくつかはいきなり巨大な市場を獲得し、大成功をおさめています。こういった事実が、前述したような変化を如実に証明していると言えます。
 どうでしょう、IT革命がもたらす「大変な時代」は「面白い時代」でもあると思いませんか。

2000/10/04

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