【本の感想】

『D-蒼白き堕天使』

 私が菊地秀行氏の作品を一生懸命読んでいたのは中学生の時だから、もう15年も前のことになる。忘れもしない、最初に読んだ菊地秀行作品が、『吸血鬼ハンター"D"』だった。本作は吸血鬼ハンターシリーズの9作目で、既に10作目も執筆されている。一応このシリーズは全て読んでいるものの、前作を読んで以来長いこと菊地秀行作品にはご無沙汰していたこともあり、いやはやなんとも、感慨深いものがある。
 本作は、シリーズ中でも最長の、全4巻になる長編である。しかし、内容はというともう「相変わらず」としか言えない。隅から隅まで菊地秀行作品なのだ。講談を思わせる口幅ったい語り口、演出過剰にも思える舞台設定、少年ジャンプのマンガのようなストーリー展開、どこか突き放されたような読後感、などなど。吸血鬼ハンターシリーズに限らない、菊地秀行作品の大半(全てかどうかは知らないので)において貫かれているこの黄金のワンパターンが、ファンにとってはたまらないのだろうし、私にとっては懐かしかった。
 驚くべきは、そのワンパターンがとくに凝った演出や仕掛けがあるわけでもなく4巻に渡って延々と続き、事実「無駄に長いよなあ」とも思いながら読み進むのに、ダレたりウンザリさせられたりといったことがないということだ。これは、本作(や多くの菊地秀行作品)が一編全体で一つの形をなして完成するというものではなく、純粋に「過程を楽しむ」ように書かれた物語だからなのだろう。それは一編のストーリーとして全体を見た時にまとまりの美しさに欠けるということを意味するし、事実私も沢山の菊地秀行作品を読んでやや幻滅を感じたことがあるのだが、これはこれで、エンターテイメント作品としての一つの完成形態なのかもしれないと、今では思っている。最初から「そのつもりで」読まないと、読み終わってガッカリしたり腹が立ったりということがあるのではないか、という疑念はどうしても残るのだが、それでも作者の「筆力」のようなものを感じずにはいられない。
 あとは、いつかこのシリーズがなるべくしっかりとした形で完結を迎えることを祈るだけだ。
 私は既に菊地秀行氏の作品をあれこれ読もうという気は失っているが、このシリーズにはそれなりの思い入れがあることでもあるし、刊行ペースもゆっくりしたものなので、これからも当面は付き合って行こうと思っている。

1997/11/05
『D-蒼白き堕天使』
菊地秀行 著
ソノラマ文庫(き1-35,38,39,40)

to TopPage E-Mail