亜愛一郎シリーズの2冊目。
私がこのシリーズに「慣れて」しまったためか、作者の筆が「乗って」来たのか、とにかく前巻にも増して気持ちよく読むことが出来た。ミステリ要素は相変わらずかなり強引なのだが、そのつもりで読めばそれなりに説得力はあるし、第一それよりも各編に登場するキャラクターが魅力的なのだ。本巻の各編では亜愛一郎の風変わりなキャラクターがあまり前面に押し出されずに少々残念に思う部分もあるのだけれど、ゲストキャラクターがそれぞれになかなか面白くて惹かれてしまう。中でも『意外な遺骸』の主人公(?)桜井料二のキャラクターにはちょっと感心した。
また、全編にちりばめられたユーモアも、たまにバッチリ決まって笑わされるところがあった。この、漫才ともコントとも映画ともマンガとも異なる独特のリズム感を伴ったギャグセンスは、小説(文学?)特有のものなのだろうか。ちょっと北杜夫作品を思わせる。
本巻でも、亜愛一郎の素性については全く語らていない。…しかししかし、何たる事か。こともあろうに、田中芳樹氏による巻末文(というのかな?)の中で、さらっとその設定が明らかにされてしまっているのである。「正体を明かしても魅力がそこなわれることはないと思うので明かしてしまうが…」と田中氏は書いているが、確かにキャラクターの魅力は損なわれないとは思われるものの、少なくとも私にとっての次巻(最終巻)を読む楽しみは大幅に損なわれた。亜愛一郎についてどれだけ語られるかに最大の興味を持って読むような読者はもしかすると私だけなのかもしれないが、それにしてもこれはルール違反ではなかろうか。
おのれ田中芳樹、『銀河英雄伝説』は大好きだけど、この恨みは忘れないぞ。