亜愛一郎シリーズを読んでいて、このギャグセンスは北杜夫っぽいなと思っていたら、久しぶりに北杜夫作品を読んでみたくなった。そんな折にたまたま立ち寄った駅の古本市を見たら、一冊100円コーナーに何冊か見かけたので、ホイホイと買って来てしまった。そのうちの一冊がこの本である。
内容は、短編小説2編とエッセイ51編。大して厚くもない文庫本にこれだけ入っているのだから、当然一つ一つは非常に短い。一編3ページから4ページというものがほとんどだ。私がこれまでに読んだ北杜夫作品は長編が多かったし、エッセイはほとんど読んだことがなかったということもあり、まず最初にその短さに驚いた。そしてまた書いてある内容が実にくだらなく他愛なく、しかも面白いのだ。くだらないと言っても全くナンセンスというわけではなくて、何と言うか、知性も高く洞察に優れた人の酒飲み話を聞いているような、そんな感慨がある。声を出して笑ってしまうことも何度か。中には時事ネタっぽい話がいくつかあるが、とくに古さは感じない。逆に、ものの値段が異様に安く書いてあって、「ああ、結構昔に書かれたものだったんだな。今言われてることと全然変わらないじゃないの」と驚くことの方が多い。
全体としては内容がバラバラで寄せ集めの感が否めないが、だから悪いという気も起きない。別に一冊の芸術作品として完成していなくたって、面白いんだからいいじゃないか。
どうやら北杜夫作品にはまだこの手の本がいくつもあるようなので、早速探して買い込んでこようと思う。そして、外へ持って出るための本としようと思う。私は乗り物の中などで真剣に本を読んでいると異様に疲れてしまう人なので、そういうところで読むのにはなるべく深刻に考えなくて済む、軽いものを選ぶようにしている。しかし、軽いものを選ぼうと思うと結局つまらなくて時間の無駄にしかならないものを掴んでしまうことが多い。だから最近は、電車の中などではHP200LXでパソコン通信のログデータを読むことが多くなっている。しかし、こんな本ならば気楽でしかも面白く、少なくとも単なる時間の無駄ではないというだけの内容があり、一編が短いのでこま切れの時間でも安心して読める。まさに願ったり叶ったりだ。