Borlandの言語製品のマニュアルはおおむね親切で、訳にややクセがあったりはするものの、かなり解りやすい部類だと思う。おかげで私はDelphiの入門書を一切買わずに済んだ。Delphi自体に付属の「入門」「ユーザーズガイド」「プログラマーズガイド」「Object Pascal言語ガイド」などがその役割を果たしてくれたからだ。もちろん、Delphiのユーザーインターフェースが取っつきやすいものだということもあるだろう。とにかく私は一応Delphiでプログラムを組むにあたってのごく基本的なことは理解出来たということで、次のステップに進むための、もう少し「突っ込んだ」解説書が欲しくなった。しかし、どうも書店をザッと見たところ、目に付くのはいわゆる入門書と、それ以外では「パーフェクトガイド」などと名乗った物凄い厚さの本ばかりだった。もうちょっと買うのにも読むのにも勇気が必要にならない中級者向けの本はないものかと探してみたところ、目に入ったのがこの本というわけだ。
実際、この本が「入門者を脱したユーザー」を対象に書かれた本であることは間違いない。Delphiプログラミングの基本やObject Pascalの文法については「おさらい」という形でVisual BASICと対比しながらざっと流してあり、重点が置かれているのは後に続くグラフィックに関する章やプログラム事例の章、データベース機能についての章だ。
グラフィックに関する章では、印刷も含めたグラフィック処理について、VCLのCanvasオブジェクトを使うやり方から、同じことをWindows APIを使ってどう実現するかというところまで書かれている。解説はとにかく「実際にどうするか」を丁寧に順を追って説明するということに終始していて、非常に現実的で迷いがない。反面、論理的な解説がほとんどないため、どうも解った気がしないというところもある。
プログラム事例の章で扱われているのは、簡単な画像処理やBMPファイルの作成、文字列処理を自前で実現するとしたら、というような題材だ。確かにプログラミングの実例として参考にはなりそうな内容だが、そのまま役に立つようなものではないような気がする。
データベース機能についての章は、グラフィックの章以上に理屈無用の実例解説一辺倒で、どうも納得出来ない部分が多い。しかし、確かにこれだけ読めばとりあえずデータベース機能を使った簡単なプログラムは書けてしまうような気がするし、ニーズによっては有り難い書き方なのかもしれない。
はっきり言って、この本はあまり内容に統一性がなく、一冊の解説書としての完成度は決して高くないと思う。論理的、網羅的、鳥瞰的な解説がほとんどなく、ひたすら実例とその解説に終始するという書き方も、個人的には不満だ。しかし、その実例解説は非常に丁寧に、冗長になることをいとわず順を追って書かれているため、求める情報がそこにある場合にはそれを受け取りやすく、実用的であるとも言える。
内容にかなり偏りがあるため、「中級者一般に向けた解説書」と思って買うとガッカリすることになるかもしれないが、その偏った内容に自分の求める情報が含まれている場合には、かなり役立ってくれる本だと思う。実際、私もAPIによるグラフィックの扱いなどに関してかなり参考にさせてもらった。
…でも、やっぱりイマイチ解った気がしないんだよなあ。
教科書にはならないが、副読本としては場合によって非常に有用な一冊、というところだろうか。