「公式に正しいHTML」についての解説とリファレンスマニュアル。
世にHTMLやホームページ(厳密にはこの言い方も間違いらしいが)制作に関する解説書はそれこそ星の数ほどあるが、それらはほぼ例外なく「どうページを作るか」の解説とHTMLに関する解説とがゴッチャになっていて、対象とするブラウザも暗黙のうちに限定されていたりする。そういう解説書でもそれなりに質の高いものはあるし、事実私もそういった解説書を読んでHTMLを扱えるようになったのだけれど、これはもうプログラミングと同じで、書いているうちに「とりあえず書けてるけど、本当にこれでいいの?」と感じることが多くなって来る。そんな時によすがとなる、C++におけるARM(『注解C++リファレンスマニュアル』)のような本があればいいのだが、どうもこれが見当たらない。公式に提示されているHTMLの仕様書は英文のものだけという状況である。
実際問題としてNetscape NavigatorやInternet Explorerの独自機能には便利なものも多いし、各種プラグインも色々と楽しい。「公式に正しいHTML」だけを使ってWebページを作らなくてはいけないとは思わないし、個人的にも敢えてそれにこだわるつもりはない。しかし、本筋から外れる時にはどこがどれだけ外れているのかを自覚しておきたいと思うのがマトモな神経というものではないかと私は思う。しかし、その辺りをスッキリと理解出来るような情報はなかなか手に入らない。HTML3.2のドラフト仕様が発表された頃から段々とストレスが溜まりはじめ、やがて私は半ば諦めるようになっていた。そこへ本書が登場した。
本書は公式な仕様書をもとにして、バージョンによる差異も含めた「正しいHTML」のリファレンスを提供するとともに、世に氾濫するいい加減な書籍や記事によって蔓延している誤った認識を正すべく簡潔な解説を添えて読者の「正しい理解」を促している。これがどちらもまさに、今まで私が欲していて得られなかった情報だ。
そういう意味で、私は本書にとても満足している。これまで疑問に感じていたことや理解が怪しかったことが、非常にスッキリと理解出来た。リファレンスとしてもよくまとまっており、有用だ。Webページを作成する人全てに…とまでは言わないが、HTMLそのものに少しでも興味のある人には、文句なくお勧めしたい。
ただ一つ欠点を挙げるなら、それは解説記事の論調が妙に愚痴っぽいこと。巷に誤った情報が氾濫し、懸命にそれを正そうとしてもなかなか理解してもらえないという苛立ちはよくわかるのだが、それが解説の端々ににじみ出てしまっているのだ。それも多少であれば却って親しみがわくようなものだと思うが、本書においてはそれがかなり顕著で、部分的にはやたらにくどいところや、ほとんど嫌味スレスレと感じるところもある。それだけ巷の状況がヒドイということは確かなのだけれど、出来ればその辺りも含めてクールに「解説」して欲しかったと思う。
ともあれ、本書は現時点で最も信頼のおける「公式なHTML」のリファレンスだと思うし、「誤解」を正す解説も非常に有用なものだと思う。私のように、欲しいと思ってこれまで得られなかった情報を本書から得られるという例も多いのではないだろうか。なるべく多くの人に読んでもらいたい本だ。