オブジェクト指向開発における分析と設計、そしてC++による実装までが無理なく学べてしまう、とってもお得な入門書。
…などと言うとなんだか宣伝文句のようだが、これは嘘偽りも誇張もない、実際に読んで感じた本当のことだ。百万馬力でお勧めの一冊。
本書は、Dr.Dobb's JOURNAL JAPAN(DDJ)誌に連載されていた同名の記事に大幅な加筆修正を施して単行本化されたものである。実は私は、この記事のためにDDJ誌を定期購読するに至ってしまい、連載が終了して久しい今でもそれが続いていたりする。それほどまでにこの講座(?)は魅力的なのだ。
何がそんなに魅力的なのかというと、これは「本当の意味での『解説』をしてくれている」ということだと私は思う。つまり、解説すべき内容をよく理解した著者が、本当に大切なのは何なのかということをよく吟味した上で噛み砕き、順番に読んで行けば自然に理解出来るようによく考えて構成し、平易な文章でそれを綴ってくれているのだ。なんだか当たり前のことのように聞こえるかもしれないが、こういった「本物の解説書」は実際には非常に少ない。巷に溢れている入門書の類いにはまずないし、それ以前にそもそも最初の「著者が解説すべき内容をよく理解している」という時点でもうアウトという本がかなり沢山あったりするのでぶったまげてしまうのだ。
まあそれはさておき、本書は本当に優れたオブジェクト指向開発の入門書だ。そもそもオブジェクト指向というのはどういったものなのかということから、分析/設計における基本的な考え方、クラス図や状態遷移図の書き方、C++による実際のコーディングにそれらをどう生かすかということまでが、非常に解りやすく解説されている。もちろん、本書を読んだだけでオブジェクト指向開発からC++言語までを完全マスター、などと行くわけがないが、実際問題としてオブジェクト指向の理解にしろC++によるコーディングにしろ、最も険しい難所だと思われる「入門時」に本書は大きな味方となってくれるはずだ。入門時がなぜ難所なのかというと、それはつまり何も知らないところへ色々な情報がどっと押し寄せて来るので、どれが肝心なところなのか判断がつかず、端から全てに同じように取り組まなくてはならないからだ。そうしているうちにやがて頭の中で情報が整理されて行き、その後どう学べばいいかも段々と解って来る、というのが常だと思う。それが、最初から肝心な部分はしっかりと、そうでない部分はあっさりと、そしてどちらも解りやすく書かれている入門書に出会えれば、非常に楽になるのは当然のことだ。本書はまさしくそういった優れた入門書なのだ。天晴れ。
なんだか手放しで誉めてばかりいて自分でも気持ちが悪くなって来たが、実際にとても素晴らしい本なので仕方がない。私自身がオブジェクト指向についてあまりよく知らないためにアラ探しが出来ないということはもちろんあるが、それを計算に入れてもやはり本書が非常に優れた入門書であることは確実だと思う。敢えて欠点を探すとすれば、タイトルが長くてダサイことくらいだろうか。(笑)
しつこいようだが(実際しつこい)、大オススメの本である。オブジェクト指向プログラミングに少しでも興味がある人には、ぜひ読んでいただきたい。