【本の感想】

『遊びのレシピ』

 久々の大外れ。
 ゲーム作りを通してプログラミングを学ぶという目的ではなく、ゲームを作ること自体を目的に、そこで使われるアルゴリズムとデータ構造を中心とした実際のプログラミング手法を、アドベンチャーゲーム、RPG、カードゲームなど各種のゲームジャンルごとに解説して行くというコンセプトで、使われている開発環境はDelphiとC++ Builder。私にとっては願ってもない内容だということで、ろくに立ち読みもせずに買って来てしまったのだが、結果は惨澹たるもの。ほとんど役に立たない。
 解説書としては、ほぼ最低の出来なんじゃないだろうか。いや、明らかな嘘が書いてあったりはしないし、文章自体が何を言っているのかわからないということもないので、本として最低ではないかもしれない。だが、内容的には最低に近いと思う。

 まず、解説自体が絶対的に不足している。本書では各ジャンルについて一つずつサンプルゲームを実際に作り、それに使われているプログラミング手法を解説して行くという構成になっているのだが、実際にはどのゲームについてもその一部しか解説されていない。一部と言っても最も重要な部分だけを詳細に解説しているという風でもなく、全体を鳥瞰して大雑把に解説しているという風でもない。具体性にも一貫性がなく、読者にとってはたまたま自分が疑問に思っていた部分が具体的に書いてあった場合にしか役に立たない。そんな風に解説の絶対量が不足しているにもかかわらず、各章で著者の個人的な無駄話が繰り返されていたりするのは腹立たしい。
 図版の解りにくさもヒドイ。各所でデータ構造やアルゴリズムが図示されているのだが、この図解の仕方がことごとく不適切で、世にも稀に見る解りにくい図版になっている。構造を図に表すなどということは誰がやっても同じようなものになるだろうと思っていたが、考えを改めさせられた。
 そして結局これが一番根本的な問題なのじゃないかと思うが、対象とする読者がはっきりしていない。本書では各ゲームジャンルについての解説の冒頭で「アドベンチャーゲームとはどんなものか」「RPGとはどんなものか」ということが長々と解説されるが、それを知らない読者が本書を買うだろうか。プログラミングに関してもそうで、例えば関数ポインタの節では読者が「アドレス」という言葉も知らないという前提で「ポインタとは何か」を延々と解説し、同じ節の最後でこれはDOSの割り込みベクタと同じだと言い出す。ポインタが何かを知らない読者がDOSの割り込みベクタを知っていると、本気で思っているのだろうか。

 本書はInside Windows誌に連載されていた記事をまとめて加筆修正したものらしいが、だからといってこの内容のとっ散らかり方が許されるものではないと思う。
 やはり解説書を買う時には極力内容を吟味してから買わなくてはいけないと、改めて思い知らされた。トホホ。

1998/09/11
『ゲームプログラミング 遊びのレシピ アルゴリズムとデータ構造』
有馬元嗣 著
ソフトバンク

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