書店でなんとなく本を物色していて、その場の勢いや気まぐれによって何の予備知識もなく買った本が意外に面白かったりすると、とても得をした気分になったりする。私にとってはこの本がそうだった。表紙の煽り文句にある「抱腹絶倒の連作推理」というのに惹かれて買って、読んでみると例によって煽り文句のいい加減さにあきれることになるのだが、この作品はそれなりに面白かった。
法理論の権威であるメルトン教授がケンブリッジ大学に招かれて講義をするのだが、電車を降りる時に転んで頭を打ったことがキッカケで、学生たちの前で破天荒な物語を語り始めてしまったからさあ大変。学生は大喝采、学校側は慌てふためき、しまいには教授は精神病院送りに…。というストーリーをベースに、その中で主にメルトン教授が語る物語として短編小説が織り込まれるというのがこの作品の構成だ。
織り込まれる短編小説は推理小説などではなく、人情話からちょっとしたミステリまで様々なのだが、どれも多かれ少なかれ犯罪に関係しているという点と、ラストにオチがあるという点が共通している。殊更に推理色やミステリ色を強調せず、ごく自然にオチのある短編小説…というより本当にちょっとした「物語」として書かれている感じが、私好みだ。ベースとなるメルトン先生のストーリーもユーモアと皮肉に富んでいて、精神病院のくだりなどなかなか笑える。
ベースストーリーのラストの展開がありきたりなのが残念だが、久々に楽しく気持ちよく読めた小説だったように思う。