【本の感想】

『老人と海』

 だって、読んでなかったんだもん、しょうがないじゃない。…と、ダダをこねたくなってしまうくらい有名な作品だが、もちろん読んでいなかったんだからしょうがない。子供の頃に映画のTV放映を観たような気がするが、内容はまるで覚えていない。ただ、夕暮れの海辺に老人が座っている光景(そのまんまやんけ)がおぼろげに思い出せるだけだ。
 というわけで、せっかくヘミングウェイの全短編を読破したことだし、ついでにこれも読んでみようかという気になったわけだ(意味不明)。本も薄いし(爆)。

 ノーベル文学賞を受賞した作品というものをどう見ていいのか私の中ではイマイチ迷いがあるので、とりあえず「世界的にすごく有名な作品」くらいに考えておくことにして読んでみたが、これはやはりというか、かなり楽しめた。時間経過がどうとか独特のリアリティがこうとかいうことは散々言い尽くされているし聞かされまくっているので今さら言う気が起きないが、このグイグイと力強く引っ張って行かれる感覚は非常に心地良い。グイグイと引っ張られるように読まされる作品というのは割とあるものだが、それらはなぜか大抵異様な暗さや陰湿さを伴っている。この作品にはそれがない。もしかすると、これがとても凄いことなのかもしれない。
 恐らく多くの文学作品は人間の精神の暗い面、痛い部分を取り上げ、考察し、描写し、そのパワーによって読者を引っ張って行くのだと思うが、この作品ではそもそものテーマが違い、敢えて暗い部分や陰湿な部分を描こうともしていないので、そこから生まれる雰囲気もまるで違っている。この作品で一番大きく描かれているのは「誇り」(あまり言いたくはないけど、それも恐らくは「男の誇り」)だと思うが、まさにそれが余計な要素を交えず非常にストレートに、それでいて深く考察されて描かれているところが、この作品の魅力なのだろうと思う。誇りというのは実際単純なものだが、「白か黒か」というほど単純なものではないんだな、というのが私がこの作品から得た教訓ということになりそうだ。
 あ、それともう一つ。「世界的にすごく有名な作品」はやっぱり読んでみた方がいいかもしれない、というのも教訓かな。(爆)

1998/07/17
『老人と海』
アーネスト・ヘミングウェイ 著
福田恆存 訳
新潮文庫(ヘ2-4)

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