【本の感想】(含ネタバレ)

『暗闇坂の人喰いの木』

 やはり買ってしまった島田荘司氏の御手洗潔シリーズ作品。
 かなり猟奇色と謎解き色が強い作品のように思えたのでそのつもりで読んでいたのだが、読み終わってみるとどうも納得出来ない部分が多い。

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 死体が屋根に跨がったり頭から木に突っ込んでいたりしたのが単なる偶然だったというのは、さすがにあんまりなんじゃないかと思う。それならどうして被害者二人の靴は片方ずつ同じところに落ちたのか。御手洗が煙突の頂上に現れるシーンで、やはり靴が片方木の前に落ちていたということも全く意味をなさない。単にその場を盛り上げる演出としてのご都合主義ということになってしまう。
 屋根の上の死体が発見された時になぜか現れた梯子も、家の主人が後で登ろうと思って出しておいたのをつい言いそびれたなんて、ちょっと頷けるものではない。
 地下室からの非常出口を隠すためだけに大木の幹に擬装カバーを作って取りつけたという強引さには目をつむるとしても、上記のような点はやはりどうかと思う。

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 この作品では冒頭から御手洗潔と石岡和巳が存分に活躍してくれるので私としてはそれなりに楽しめたのだが、ミステリー小説としてはちょっとガッカリだった。
 「巨人の家」の謎に関しては、ちょっとやられた感じだったけれど。

 感心したのは、ストーリーが進む過程でおかずとして様々な史実や資料を示して、作中の猟奇性や一見異常に見えることがとくに珍しいことでも奇異なことでもないのだということを自然に読者に納得させてしまう手法が、実にうまく機能しているように思えること。これらの情報はかなりあからさまな形で示されるのだけれど、書き方が巧いからなのか何なのか、とにかくこちらは本筋のストーリーそっちのけで興味深い話として引き込まれて読んでしまったりするのだ。この辺は島田荘司氏一流の、強引さを強引に打ち消してしまうという、まさに力業の勝利というところではないかと思う。

1998/11/08
『暗闇坂の人喰いの木』
島田荘司 著
講談社文庫(し26-12)

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