清水義範氏の、広い意味での「会話」をテーマにした(と思われる)作品を集めた短編集。
色々なキャラクターやシチュエーションにおける「会話」(対談とか会議とか)が、それぞれの「型」にはめてデフォルメして描かれている。こういった、どこかから「型」を持って来てデフォルメするような手法を、パロディの一種というような意味でパスティーシュと呼ぶそうだが、これが実に堂に入っている。読みながら、「うんうんそうそう、こうなんだよね」と頷かずにはいられない。
しかし、正直なところ私にはこの本に収められている作品群は、あまり面白いとは感じられなかった。それぞれの「型」を実にうまくデフォルメしてあるので皮肉としては非常に良く出来ているが、エキセントリックな面白さは不足している。要するに、笑えないのだ。「うんうん、そうなんだよね。まったくなあ」で終わってしまうのである。強い印象が残らない。せめてもっと強いオチがあったらなあ、などと思ってしまう。
ところが、大森望氏によるこの本の解説を読むと、どうもこの本に収められている作品群には、パスティーシュとしての面白さの他に会話のリアルさという価値があるらしい。言われてみれば確かに、作中の会話は文法的にもしっかりした台詞っぽい台詞ではなく、書き言葉としてはかなり無茶な、リアルな会話である。しかし、私はそれをとくにリアルだとは感じず、解説文を読むまでそれが価値のあることだとは全く気付かなかった。なぜなら、私はそういったリアルさにはマンガで慣れてしまっているからだ。小説の世界ではこういったリアルさがそれだけで価値のあるものだった(少なくともそういう時期があった)という事実に、逆に驚いてしまった。
そういうわけで、この本は私にとってはあまり面白くはなかったのだが、決してつまらなかったわけではないし、思わぬ勉強にもなったので、読んだ甲斐があったとは思う。