【本の感想】

『蕎麦ときしめん』

 どうやらこの本は、清水義範氏が「パスティーシュ」という言葉を意識して、かつその形式を自分なりに確立した時期の作品が収められているらしい。

 率直な感想としては、これまでに読んだ清水義範氏の本の中ではあまり面白くない方に入ると思う。それでもそこそこに楽しめるのだから凄いとは思うのだけれど。
 この本を読んでいて一番笑ったのは、冒頭に表題作である『蕎麦ときしめん』があり、その後に他の作品を読み進んで行って、最後の作品に至ってみたら『きしめんの逆襲』というタイトルが目に飛び込んで来た時だった。これは本の構成もさることながら、この内容の作品に『きしめんの逆襲』というタイトルをつけてしまうセンスが凄いと思う。
 作品として一番面白かったのは、『序文』。私は以前からパソコン通信のBBSなどで、いい大人が立派な言葉を使って高尚な学問にかこつけながら子供じみたケンカをするところを沢山見ているということもあって、この作品はかなり実感を伴って読めた。
 また、『三人の雀鬼』には少々驚いた。これは明らかに阿佐田哲也作品のパロディだと思うのだが(違ってたら恥ずかしい)、阿佐田哲也作品というのはそこまで一般的なものだったのか、とまず感じてしまった。考えてみれば『麻雀放浪記』は映画にもなっているし、他にもベストセラーはいくつもあるのだから、そうであっても全然おかしくはないのだけれど。私が阿佐田哲也作品にハマッたのは中学生の時だったから、ちょっと感覚が違っているのかもしれないなあ。

 ここに至って、私にとって清水義範作品は、ちょっとした息抜きとか、あまり気力の充実していない時の楽しみとして読む本としての地位を確立してしまったような気がする。これは、多くの人がTVを観る感覚に近いかもしれない(私はあまりTVを観ない)。その意味では、まだまだ未読の作品が非常に沢山あり、しかも作者が多作で今後もどんどん作品が増えそうだという状況は、とても有り難いことだ。
 あとは、私が妙に気張ってしまって、短時間のうちに一気に何十冊も読んでしまうことがないように気をつけるようにすれば、本当にTV番組を観るように楽しむことが出来るだろうと思う。これってやっぱり、とても凄いことなんだろうな。

1998/12/31
『蕎麦ときしめん』
清水義範 著
講談社文庫(し31-2)

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