【本の感想】

『グローイング・ダウン』

 清水義範氏の、かなり初期の作品集。…と言っていいんだろうな、よくわからないけど。やはり雑多な作品が集められている。この本には九本の作品が収められているが、はっきりとパスティーシュと言えるのは一本だけで、一応その部類に入るかなと思えるのがもう一本、あとは普通の(?)短編(またはショートショート)だ。
 唯一のはっきりしたパスティーシュである「神々の歌」は、他にもいくつか傑作のある、強引なこじつけと屁理屈の「新解釈」ネタ。個人的にこの方向は好きだし、楽しめた。
 パスティーシュでない作品は、SF的なネタのものが多い。私がその方面に馴染みがあるからかもしれないが、どれも割と素直に楽しめた。とくに「ひとりで宇宙に」はある時期の典型的なSF短編と言ってもいいような作品で、私としては好きなのだが、今日の清水義範らしさは全く感じられず、少々意外な気がした。そういう意味ではオーソドックスな人情話の「また逢う日まで」もそうなのだが、こちらには多少「らしさ」があるように思える。逆に「暗殺の孤影」は私なんぞが読んでも未熟と感じられる作品だったりするのだが、この本においてはそれもバラエティの一つと思えるから不思議だ。

 「パスティーシュに脂の乗る前の清水義範作品」という意味では『深夜の弁明』と同じ印象なのだが、私はこの本の方がずっと気に入った。

1999/01/20
『グローイング・ダウン』
清水義範 著
講談社文庫(し31-1)

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