いやもう、どうしようもないくらいつまらない本。タイトルがちょっと気になったのと、書店で冒頭部分をめくってみたら、タイプライターのQWERTY配列の話から始まっていて面白そうに感じられたのとで、普段ほとんど読むことのないノンフィクションのバラエティものであるこの本を思わず買ってしまったのだが、読むほどにその類い希なつまらなさにびっくりという感じ。しかし客観的に考えてみると、むしろ巷にあふれかえるこの手の本を私はかなり巧妙に避けることが出来ているということなのかもしれない、とも思えたりする。
人間は誰しも実に様々な形や目的で沢山のウソをつくもので、その影響や結果も実に様々。その意味では、人間社会はウソで埋め尽くされているとも言える。だから、巷や歴史に溢れるウソにまつわる面白い話は沢山あるわけで、それを集めて本にしたらさぞ面白かろう。…というのがこの本の趣旨である。実にもっともな話で、そうして書かれた本ならば、少なくともつまらないはずはなさそうに思える。…が、この本は見事につまらないのだ。一体なぜなのかと考え込んでしまうほどである。
まず一番気に入らないのは、常に根底に「ウソは悪であり、正直こそが美徳である」という倫理観がべったりと居座っていること。「人間社会を埋め尽くす様々なウソ」の話を書くということは、こういうごく一般的な通念をちょいと揺さぶったり時にはひっくり返したりして楽しむというのがまず一番の趣旨のはずだろうに、これでは読者は一体どこを楽しめばいいのかまるっきり解らない。となると当然ながら、持ち出される「実話」の数々も「これのどこが意外なの?」「だからどうしたの?」的なものがかなりの割合を占めることになってしまう。更に、ウソに関する善悪だけでなく、その他にも傲慢なまでに保守的な価値観があちこちにチラチラ見え隠れしたりしていて、どうにもやり切れない。
加えて、論理的な破綻が目立ち過ぎるのが致命的だ。ある部分では統計データというものはそもそも全く信用が置けないという話をしておきながら、その先の章では当然のように統計データを持ち出して主張の根拠にしようとする、という具合で、とにかくその節操のなさ、いい加減さ、思考レベルの低さはTVのワイドショー番組並みだ。つまりはそういうレベルの、そういう目的の本なのだろう。
それならトコトン下世話でエキセントリックな趣があるのかと言えば、上記のように内容は「穏健」そのもので、つまるところ一生懸命探しても見るべきところはカケラもないのだ。これはもう、どうしようもない。
まあ要するに、買った私がバカだったというだけの話になってしまうようだ。
久々に、「世の中にはこんなクズみたいな本が沢山あるんだ」ということを実感させてくれたという、その一点だけにおいて読んだ意味があったと思える。