【本の感想】

『遺書』

 ダウンタウンは、日本のお笑いで一番面白い。もう何年も(10年くらいになるか?)前からそうだし、恐らく何年か後もそうだろう。もちろん、とくにお笑いマニアというわけでもない私の知っている範囲でのことだけれど、これはまず間違いないだろう。私はTVで初めてダウンタウンの漫才を見た時、あまりの衝撃にその場でほとんど全てを覚えてしまい、後日会った友人に一人で演じて見せてしまった。若き日の恥ずかしい思い出だが、それからずっと、私はダウンタウンを高く評価している。そしてとくに、松本人志氏の面白さは恐ろしいまでに天才的だ。
 その松本氏が本を出して、しかもベストセラーになっているというニュースは発売当時も聞いていたし、もちろん興味も持っていたのだが、なにしろ私はハードカバーの本をまず買わない人間だし、いかに松本氏の書いたものとは言っても、タレントの気ままなエッセイ本がそんなに面白いとも思えなかったので、結局は読まなかった。ネタ本だったら無理してでも買ったかもしれないが。
 で、最近になって知人がこの本をブックオフで100円で買い、それを友人がもらって読み、さらに私のところへ回って来たのだ。なんともリーズナブルな話で、どちらかというと本という物体に思い入れのある方である私にはあまりないことなのだが、この本に関しては上記のように考えていたので、丁度いい機会だということで読ませてもらった。

 正直言って、やはりタレントのエッセイ(連載コラム)本であるという感触は否めない。
 軽い読み物の域を出ていないのは、元々そういう目的で書かれたものなのだから仕方がないとは思うが、私にとっての「キング・オブ・お笑い」である松本氏の書いた本であるという事実が、やはり少々食い足りない思いを残すのだろう。
 書いてある内容は非常に真っ当で、ある意味当たり前のことばかりである。ある程度以上の知性を持つ人間なら誰でも思っているようなことが、普通に書いてある。ただ、実名で人を罵倒したり、「世間には本当にバカが多くて困る」とかいうことをそのまんまの言葉で書いてしまっているところが特徴かとは思うが、それも松本氏ならではということでもないだろう。まあ、有名タレントでありながらここまで書く人は、もしかすると他にはいないのかもしれないが。
 ちょっと思うのは、松本氏は「書き言葉」にはあまり慣れていないのかもしれないな、ということ。恐らくこの本の内容は、読むよりも聞く方が面白いんじゃないだろうか。松本氏のトークの面白さをそのまま文章で表現するということはそもそも不可能なわけで、文章を読ませて面白がらせるためにはまた別のリズム感とかひねり方とかが必要になって来るわけなのだが、さすがに松本氏はそこまで出来ていない。…というか、そもそもしようとも思っていないのだろうけれど。
 要するに、この本には松本仁志氏のエッセイとしての面白さはあるものの、文章作品としては面白くないということだ。単純に文章を書くことに慣れていないということなのか、そもそも文章作品として面白いものを書こうなどと思っていないのかは、よく判らない。松本氏はこの後も何冊か本を出しているようなので、もし前者だとすればより面白いものになっている可能性はある。今度は私が100円で買って来てみることにしようか。

1999/10/13
『遺書』
松本人志 著
朝日新聞社

to TopPage E-Mail