【本の感想】

『コンピュータネットワークとインターネット』

「あなた、本当はインターネットってよう解らんのに、解ったようなフリをしてませんか?」
「ギクうッ!」
 …というTVCMがあるが、世の中に、インターネットのことをキチンと解っている人がどれだけいるだろうか。自慢じゃないが、私はよく解っていない。実際に自分が使う上で必要な概念と知識を自分なりに貯えて、普段あまり縁のない部分や基本的な技術に関しては「大体こんなところだろう」という感じでお茶を濁している。ネットワーク関係の技術者でもない限り、大抵の人はそうなんじゃないかと思う。だって、普段使っている分にはそれで充分なわけだし、基本からちゃんと勉強しようと思ったら大変な努力が必要になりそうだもの。そりゃ、出来ればちゃんと知りたいとは思うけどさ…。

 この本は、そんな人にとっての福音と言えるかもしれない。なんともストレートなタイトルに偽りはなく、コンピュータネットワークとインターネットについて、基本から応用までキッチリと解説されているのだ。なにしろ、この本は伝送媒体としての「銅線」の話から始まるのである。そこからローカルな非同期通信の話になり、RS232Cが登場し、ボーレートの調整やエラー処理の必要性が出て来る。次に長距離通信の実現としてモデムが登場、ダイヤルアップを含む各種接続モデルの解説があり、パケットの概念からLAN、WANに進み、ルーティングとプロトコルの解説を経て、インターネットへと至る。IP、TCPやドメイン名の解説はもちろんのこと、メールやFTPからWWWとHTML、CGI、Javaにまで解説は及ぶ。ちょっと乱暴な言い方をすれば、この一冊で本当にコンピュータネットワークとインターネットを鳥瞰出来るのだ。それもただ鳥瞰するだけではなく、基本的な概念や技術にはそれなりに詳しい解説がなされているので、かなりキッチリと理解出来る。
 文章としては、正直言ってあまり読みやすいとは言えない。翻訳の問題なのかもしれないが、論文調の淡々とした愛想のない言葉遣いで、やや読者を突き放すような感覚がある。しかし、解説自体は非常に理路整然としていて、とても理解しやすい。翻訳の問題と言えば、チェックサムを「検査合計」、ツイストペアケーブルを「より対線」とするなど現在の常識から見て「訳し過ぎ」と思えるところがいくつかあるが、訳者もそういう自覚はあるのか、迷うようなところには元の言葉が挿入されていたりという配慮があるので、とくに戸惑うということはなかった。全体的に見て、かなり解りやすい解説だと思う。

 当然ながら、この本一冊読めばコンピュータネットワークとインターネットに関しては全てオッケー、というわけには行かない。実際の運用方法とか、管理のコツとか、細かな技術計算の方法とか、そういったことは基本的にこの本には書かれていない。ただ、この一冊が、コンピュータネットワークとインターネットに関して、基本的な知識と理解をしっかりとした形で与えてくれることは確かだと思う。これはかなり凄いことだ。
 コンピュータネットワークとインターネットについて、これからしっかりとした知識を得て使って行きたいと思っている人、現在バリバリ使っているけれど、ちょっと理解が怪しいところがあるのでちゃんと知りたいと思っている人など、包括的な知識を得たい人にはとりあえずお勧め出来る一冊だと思う。

1999/12/07
『コンピュータネットワークとインターネット』基礎から応用までの技術入門
ダグラス・E・カマー 著
水野忠則/宮西洋太郎/佐藤文明/渡辺尚 訳
プレンティスホール出版

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