【本の感想】

『赤い風』

 チャンドラー氏の初期作品集、ということになる本らしい。
 読んでみると確かに、文体の乾いた印象や描写の周到な感覚、そして題材やストーリー展開にもフィリップ・マーロウものに通じるところを感じるのだが、これらの作品の主人公が、名前は違っても全てフィリップ・マーロウに直接つながる原形であるとチャンドラー氏自身も認めている、と聞かされると、私としてはかなり違和感を感じてしまう。人物像にかなり開きがあるように思えるのだ。もっとも、人物像にも作品自体にも今一つピンと来ない部分が多くあるので、単に私の中での印象が散漫になっているということなのかもしれない。これは初期の作品であるため技巧が未熟なのか、それとも読んでいる私の先入観のなせる業なのか、ちょっと判断がつかない。
 この辺を確かめるためにもう一度じっくりと読んでみようか、とも思ったりするが、そういう「研究」は趣味ではないので、これはまあ、当分このままにしておいて、かなり時間をおいてから、気が向いたらまた読み返してみたいと思う。

2000/01/28
『赤い風』
レイモンド・チャンドラー 著
創元推理文庫(Mチ1-3)

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