何となく書店で手に取って、何となく買って来てしまった短編集。作者はそれなりに著名な人らしいのだけれど、私は全然知らない。
なかなか面白いと思った。娯楽指向のほとんどない内容であるにもかかわらず、押しつけがましい文学臭が感じられず、素直に読める。文体に必要以上の飾り気がないからだろうか。
それぞれの作品で題材は色々だが、モチーフには適当に一貫性がある。キリスト教的な、善良かつ傲慢な価値観、世界観と、それに支配された人たちへの愛情と憎しみ、というところだろうか。こんな陳腐な表現でまとめてしまうのは、作者には申し訳ないけれど。やや複雑に思えるテーマを、かなりスッキリと読めるように表現してあるのが、この本に収録されている作品群の(そして多分この作者の)凄さなのだろうと思う。知性や価値観に訴えかけて来ては欲しいけれど、あまり一生懸命考えるのは面倒臭い、という私のような怠惰な読者には、もしかするともって来いなのかもしれない。