こんな物凄いタイトルの本を書く資格のある作家は少ないだろうし、書く気になる作家となったらもっと少ないだろう。…というか、実はこの人だけなんじゃないか、と思ったりもする。押しも押されぬ世界的ベストセラー作家たるクーンツ氏の本音の一端が読めるという意味でも、貴重な本なのかもしれない。
この本でクーンツ氏が書くことを勧める小説の内容は、かなり型にはまっている。正義感の強い主人公が艱難辛苦に立ち向かい、ちょっと恋愛なんぞをはさみながら打ちのめされ追い詰められ、やがてそれを克服して成長して行く、とか何とか。はっきり言って、少年ジャンプのマンガ並みの黄金のワンパターンだ。私としてはあちこちで首を捻らざるをえなかったりするのだが、それでもよく考えてみると、これも一応納得ではあるのだ。なにしろこの本は「小説の書き方」ではなく、「ベストセラー小説の書き方」なのだ。少なくとも現在のアメリカでベストセラー小説を書こうと思ったら、こういう型にはまった作品を書くのが一番の近道であることは間違いないだろう。実際、クーンツ氏はそういう作品で沢山のベストセラーを出しているのだから、説得力も大有りである。そして、型にはまった作品イコール手抜きというわけではなく、むしろ型にはまった方向に全力を傾け、少しも手を抜かずにプロットの構成や人物描写などに取り組む、という姿勢にも唸らされる。
問題は、日本においては必ずしもそうは行かないかもしれない、ということだ。日本でベストセラーになっている小説は、クーンツ氏の勧めるような娯楽性を前面に押し出したものではない場合が多い。日本人は一般にもっと暗くジメジメした内容を好む傾向があるとか、クーンツ氏の勧めるような娯楽性を追求した作品はもっぱらマンガで提供されているとか、そもそも小説が大して売れていないとか、色々な原因があるとは思うが、とにかく事情がかなり違うことは確かだろう。だから、日本の読者としてはこの本の内容をそのまま「ベストセラー小説の書き方」として鵜呑みにするわけにはいかない。それでも娯楽フィクション作品の基本的な創作方法として得るところはあると思うし、こういうカッチリした内容が提示されることで、それに対して自分の考えをまとめる助けになる、ということもあると思う。アメリカの読者にとってほどではないにしろ、日本の読者にとってもこの本はある程度有用なんじゃないだろうか。