【本の感想】

『アジアパー伝』

 アジア各国を舞台とした、ジャーナリスト鴨志田穣氏の自伝的小説と、その妻である西原理恵子氏のマンガ(挿絵?)からなる本。
 鴨志田氏はこれまでろくに文章を書いたことがなく、小説を書くのはもちろん初めてということで、確かに文章は下手くそなのだが、私がこれまでにサイバラの挿絵マンガを目当てに買った数々の本の中で、最も文章部分が面白かったのはこの本だ。サイバラのマンガとセットにされる文章はそれだけクソつまらないものがほとんどだったということなのだが、清水義範氏の『おもしろくても理科』と比べても、面白かったという意味ではこの本の小説の方がやや上だと思えるので、鴨志田氏の文章はそれなりに大したものなのだと思う。
 まず感じるのは、鴨志田氏の小説のノリが、サイバラのマンガとかなり通じるものを持っているということ。基本的なスタンスはほとんど両極端というくらいに違うのだが、単に扱っている内容が近いという以上に、共通する視点があるように感じる。なるほど、あのサイバラが結婚した相手が書いたものなんだなと、勝手に納得したりしてしまう。
 そう言えば、果たしてこの小説の内容のうちどれくらいがフィクションでどれくらいがノンフィクションなのか、読んでいるこちらには全く判断がつかない。サイバラのマンガでも著者のあとがきでもそういうことには全く触れられていない。何となく、読んでいると8割方、もしかすると9割くらいノンフィクションなんじゃないかという気がして来るのだが、いやいや、勝手にそんな風に思い込むのはマズイし、そもそも根拠が何もないじゃないか、と思い直したりする。…と、そこではたと気がつくのだ。この感じは、サイバラの(サイバラ自身が登場する)マンガに対する感じ方とほとんど同じじゃないか、と。なるほど、やっぱり(中略)と納得。
 いや、本当にこんな風に納得していいものかどうかも判らないが、とりあえず納得出来る時には納得しておくのが、正しい一般読者というものではなかろうか。私としてはそれが一番気持ちが落ち着くので、そういうことにしておきたい。

2000/05/15
『アジアパー伝』
西原理恵子・鴨志田穣 著
講談社

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