フィリップ・K・ディック作品集。「またかい」と思われてしまうかもしれないが、このところ続けてディック作品集を読んでいたところで、書店で平積みになっているこの本をふと見かけてしまったからには、やはり買って来てしまうというものだ。…別に、言い訳することはないか。
この本に収録されている作品は長めで歯ごたえのあるものが多く、全体としてバラエティに富む短編集という雰囲気ではない。「ディック作品が好き」という読者のための、ディック作品集という気がする。
私が気に入ったのは、「カンタータ百四十番」。色々な要素が盛り込まれた中編で、一つのテーマに鋭く切り込んだようなシャープな印象がないところなど、あまり私の好みのタイプの作品ではないのだけれど、どういうわけかかなり楽しめたのは、自分でもちょっと意外だった。感触としては、『高い城の男』に通じるところがあるような気もする。
とりあえず、現時点でハヤカワ文庫として出ているディック氏の短編集は、これで最後のようだ。私の読書も1クール終了というところかもしれない。もっとディック作品を読もうと思ったら、未読の長編に手を出すか、他の出版社をあたるかということになる。さて、私の気まぐれは、いつ、どっちへ転ぶかな。