筒井康隆作品を読んだのは、実に久しぶりのことだ。もしかすると、最後に読んだのはハードカバーの『文学部只野教授』あたりだったかもしれない。
私は、筒井康隆作品が好きだ。基本的なものの見方やテーマの選び方やすっとぼけた皮肉や、その他諸々がしっくり来るのだ。…けれど、私はこれまでにさほど多くの筒井康隆作品を読んではいない。理由は…どうしてだろう。要するに、私にとっての筒井康隆氏は、「確実に好きだと言えるけれど、全ての作品を追いかけてむさぼるように読む対象ではない」という作家の一人、ということになるのかもしれない。
そんなわけで(?)、ある時書店でふと目に止まって、外出時に読んだりするのにいいかな、などという気分で何となく買って来たのがこの短編集だった。
久々に読む筒井康隆作品は、やはり何というか、非常にしっくり来る。題材が、構成が、文章が、セリフが、ジョークが、オチのつけ方が、とにかく非常に身近に感じられるのだ。何やら安心感のようなものまで感じる。面映い言い方になるのを覚悟で言えば、こうした作品(群)は、自分のような読者に向けて書かれたもののような気がする、というところだろうか。
だからといって、私は筒井康隆作品を無条件で最高とほめそやしたり持ち上げたりしようとしているわけではない。面白いかどうかは別問題なのだ。もちろん、こうした「しっくり来る」感じは面白さにもプラスの要因ではあるのだが、それでもやはり別問題であることは確かだ。
それじゃあこの短編集は私にとってどの程度面白かったのかというと、まあまあ面白かった。…いや、つまらない結論ですみません。でも、そうなんだから仕方がない。私はこの短編集をそこそこに楽しめた。例えばキオスクで売っている本をランダムに買って読んだとしたら、これくらい楽しめる本にはまず出会えないだろう。でも、声を出して笑うほどおかしかったり、わくわくするほど驚いたりといった、大きな感動はとくになかった。だから「まあまあ」。石投げないでください。だってそうなんだもん。
一つ思うのは、これらの作品を書かれた当時(昭和40年代後半)に読んだのだったら、もっと驚いたり感動したり出来たのかもしれないな、ということ。「面白いけど、とくに目新しくはないなあ」という作品が、実は書かれた当時は斬新だったということは大いにあり得ると思う。その辺は、文学の歴史にもエンターテイメントの系譜にも全く疎い私には判らない。まあ、あまり追求しようとも思わないのが私の怠惰な読書姿勢なのだが。
この短編集の中での私のベスト1は、文句なしで『幸福の限界』。