【映画の感想】

『ヘラクレス』と最近のディズニーアニメ
★★★☆

 丸の内ルーブルでの上映が終わってしまうというので、慌てて『ヘラクレス』を観て来た。はっきり言ってあまり期待していなかったのだが、これは案外拾い物かもしれない。『アラジン』のスタッフが制作したとあれば、ここは「流石」と言うべきか。
 題材がギリシャ神話のヘラクレスということで、これはもう英雄伝説の代名詞のような物語りである。だから、ストーリーも演出も終始使い古しのお約束ばかりでとくに見るべきところもないんじゃないかと半分諦め顔で観に行ったのだが(だったら行くなという声もありそうだけど)、これが案外楽しめた。確かにストーリーも演出もとくに新鮮味のないお約束のオンパレードなのだけれど、それらが実に生き生きとしているのだ。これはやはりキャラクターがうまく描かれているからだと思う。とくに主人公とヒロイン、ヘラクレスとメグがイイ。単純バカのヘラクレスとすれっからしだが心根はやさしいメグという、実にありふれたとりあわせなのだけれど、この二人が不思議なほど魅力的に描かれている。
 ヘラクレスのような単純バカはともすると「いい加減にしろバカ」と言いたくなるようなこともあるのだが、この作品ではうまく「ちょっと抜けてる純朴な好青年」といったキャラクターになっている。日本の少年マンガの主人公によくある「一直線型バカ」とはまた一味違った魅力がある。「あの、この状況は乙女の危機では?」なんて、なかなかソソるセリフではないか。
 メグはメグでともすると「勝手に浸ってるなよコラ」と言いたくなるような設定なのだが、意外に可愛らしくかつ色っぽく描けている。キャラクターデザインは日本のセンスからすると少々ズレているが、これが動くと妙にキレイに見えるから面白い。よく歯をむき出す表情もこのキャラクターに合っているし、仕草もあまり大げさにならないように計算されて描かれているようだ。セリフも変に「すれっからし」ぶりを強調するようなことがなく、自然体という感じでイイ。このメグが、この作品での一番の(意外な)収穫だったように思う。
 映画としてはこれと言って新しいところがあるわけでもない、逆に非常に古臭くてありがちな作品なのだけれど、それだけに全体のまとまりも良く、安心してキャラクターの魅力を楽しめるという意味で、これは一つの成功例じゃないだろうか。

 私が劇場にディズニーアニメ映画を観に行くようになったのは、『美女と野獣』以降である。ついでと言ってはナンだが、この『美女と野獣』から『ヘラクレス』までの6作品に関して、私の個人的なお気に入りランキングを勝手に作って、それぞれに一言ずつコメントをつけてみた。

1位:『アラジン』
 何と言ってもミュージカルとしての楽しさがピカイチ。普段からあまりミュージカルものに馴染みがなく、歌が始まると「それはいいから早く話を進めてくれよ」なんて思ってしまうこともある私が、文句なく楽しめたのだからこれは凄いことなのだろう。音楽に合わせて目まぐるしく繰り出される演出は、一つ一つはありがちなものであっても連続攻撃で思わず乗せられてしまう。これにはランプの妖精(?)ジーニーのキャラクターもかなり貢献しているだろう。私にとってのベスト・オブ・ディズニーキャラクターは、このジーニーだ。
2位:『美女と野獣』
 非常に丁寧に作られた作品という印象。ディズニー映画はどれも丁寧に作られているのだろうとは思うが、それがこちらにガンガン伝わってくるかどうかは別問題だ。メインキャラクターの少ない単純なストーリーが逆に幸いしているのか、それとも勝負はここにかかっているとスタッフが自覚した結果なのか、アメリカアニメらしからぬ(?)落ち着いた画面作りと演出が随所に見られ、これが大きな効果を上げているように思える。映画作品としての完成度では一番だろう。
3位:『ヘラクレス』
 ヘラクレスとメグの魅力で、3位入賞。ハデスもなかなか良かった。
4位:『ノートルダムの鐘』
 どちらかというと盛り沢山の内容を、うまくまとめてある。とくに、敵役のフロローが「単なる悪人」に描かれていないところがイイ。原作を読んでみたくなる。映像的にも、一人一人が動いているモブシーンなど一見の価値あり。思い切り感情移入できるキャラクターがいないのが残念。
5位:『ライオン・キング』
 どうしても『ジャングル大帝』と比べてしまって、低い評価しか出てこない。小さな子供向けのエンターテイメント作品としてはそれなりに良く出来ていると思うのだが、やはりここまで能天気に動物を扱われてしまうと、少々受け入れ難い。映像的には、「動く背景」になかなか見るべきものがあったように思う他、一部光の使い方がうまいと思わせる画面があったことも印象に残っている。
6位:『ポカホンタス』
 キャラクターデザインや動きをリアルなものにして、題材も少し変わったところから持って来て、ストーリーも単純な勧善懲悪でないものに挑戦して、色々な意味で新機軸を狙ったところが、色々な意味で力及ばず失敗に終わった作品という印象。言っていることには共感できる部分も多いのだが、なにしろ白人と初めてコンタクトしたアメリカインディアンの酋長がいきなりオペラ調の歌を歌い始めちゃうのに違和感大爆発。これってやはりWASPの驕りなんだろうか。

1997/08/22
『ヘラクレス』
監督・脚本・制作:ロン・クレメンツ/ジョン・マスカー
提供:ウォルト・ディズニー・ピクチャーズ
配給:ブエナ ビスタ インターナショナル ジャパン

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