ディズニーアニメ『101匹わんちゃん大行進』の実写版。
この映画はやはり、これを実写で作ろうと「思った」時点ですでに凄いわけで、それが一応の完成度で出来上がったというだけでもう目的の半分は達成しているのではないかと思う。
作品の印象としては、子供向けの軽いエンターテイメントとしてはそこそこによく出来ていると思った。一つ一つの場面が丁寧に作られているように感じられる。でも、ここまで気合いを入れて作ったのだからもう一レベル上を狙って欲しかったという気はする。全体の出来も画面のインパクトも、アニメ版を明らかに越えているとは言い難い。だったらアニメでいいんじゃないの、とどうしても思ってしまうのだ。
この作品で最も好ましく感じたのは、犬をはじめとした動物に一切「台詞」をしゃべらせていないこと。この手の作品では、動物同士は人間には理解出来ない言葉でしゃべっていて、観客にはそれが人間の言葉に訳されて聞こえるという手法がよく使われるのだが、私は個人的にそれがあまり好きではない。動物同士が人間と同じように話すのなら、それは単に立場の違う人間としてのキャラクターでしかないように思えるからだ。それはそれで別に悪いことではないけれど、それを人間とからませるとやはりどうしても無理が出て来る。この作品でも動物はある程度擬人化され、明らかに人間的な会話もしているのだけれど、その会話はあくまでも吠えたり足踏みしたり唸ったりという「動物語」で行われているので、視点が(かろうじて)人間の目に保たれている。そのため、人間と動物のからみが自然に見えるのだ。
その分、動物たちは場面に応じて「演技」することで様々なことを表現しなくてはならない。これはもう最初からそのつもりで好意的に見ていないと楽しめない類のものなのだが、かなり丁寧に撮影されていることが伝わって来て好感が持てる。ただし、これだけの数のダルメシアン(の仔犬)を集めたにもかかわらず、「大行進」的な画面の迫力で押しまくるというような場面が見られなかったのが非常に残念だ。様々な困難を承知でこういう作品を実写で作ったのだったら当然そういったものが見られるのじゃないかと期待してしまったのだが。
ストーリーやキャラクターなどはもう王道という感じでどうということもないのだが、悪役のクルエラは画面上で素敵に映えていた。オバハンで、悪そうで、それでいて美しい。悪役はこうありたいものだ。どうも有名な女優らしいのだけど、私はこういうことに疎いのでよく知らない。これだけ魅力的な演技が出来るのなら有名なのも肯けるな、と思うくらいだ。
「王道」のストーリーはこれはこれでいいと思うのだが、演出面では少々不満に感じるところがあった。一番大きいのは、ハラハラするようなシーンがほとんどなかったこと。なにしろ悪役がやられっぱなしなのだ。そうなると、せっかく悪役が派手にやられても「ざまーみろ」という気持ちが沸いて来ない。却ってちょっと可哀想に思えて来てしまったりするのだ。この辺の感覚にはもしかすると国民性などの要素もあったりするのかもしれないが、とにかく私はそう感じた。アニメ版ではもっと緊迫した場面が多くあったように思うのだが…。ひょっとして、ダルメシアンを虐待しないためにハラハラする演出が困難だったのかな、などと邪推してしまったりもする。
繰り返しになるが、この作品はお子様向けのお楽しみ映画としてはよく出来ていると思う。沢山のダルメシアンを始めとする動物は丁寧に可愛らしく撮影されているので、その点に興味のある人も一見の価値があるだろう。ただし、純粋に一本の映画作品として見ると、今一つ二つ食い足りない感じがする。でも、それは決して子供向けの企画だからでもアニメが原作だからでもない。子供向けのアニメにも、映画作品として一流のものは沢山あるのだから。