【映画の感想】(ビデオにて鑑賞)

『身代金』
★★★☆

 予想していたよりは面白かった。
 予告編で「息子を返せ!」と叫ぶメル・ギブソンを見て、「そんな当たり前の台詞にそんなに力込めてどーするわけ?」などと思っていたし、身代金を詰めた鞄を持って走る姿を見て「ふーん、また例の『よくある』モチーフなわけね」とも思っていたのだが、これらはどちらも良い方に裏切られた。「息子を返せ!」の叫びにはちゃんと意味があったし、身代金受け渡しのために父親が走り回るサスペンスを主体にした映画でもなかった。

 そういうことも含めて、本作の一番いいところは、ストーリーの先が予想しにくいところだと思う。これは当たり前のことのようだけれど、とくにハリウッド映画ではかなり希なことだ。メインキャラクター(この場合は父親と主犯)の反応や行動が通り一遍のものではなく、かといってどうしても納得が行かないほど無茶苦茶なものでもないので、観ながら「自分がこの立場だったらどうだろう?」などと考えてしまう。本来、サスペンス映画というのはこうでなくてはいけないと思う。
 もう一つ嬉しいのは、悪役(主犯)が魅力的に描かれていること。やはり、誰かと誰かが「対決」するというモチーフであれば、双方が魅力的に描かれていなくては面白くない。そして、「善対悪」の図式の場合は、善の側は善であるというだけである程度の感情移入を得られるが、悪の側はキャラクターそのものにしっかりと魅力がなくてはいけない(その点で『スピード』は『ダイ・ハード』に及ばないのだと思うが、まあこれは余談)。本作の悪役はなかなかに魅力的で嬉しい。とくにこれといった大きな特徴があるわけではないのだが、それでもこれだけイイものを感じさせてくれるのは、脚本と役者がエライのだろうか。

 残念な点は、主人公の妻と息子のキャラクターが全くと言っていいほど描かれていないこと。妻はかなり出番も多く重要な役割を担っているのだから当然もっとキチンとキャラクターが作られていいと思うのだが、どうも「その辺のドラマにいくらでも出てくる母親」にしか見えなかった。息子の方はストーリーの組み立てからしてもキャラクターを立たせるのはかなり難しいと思うのだが、そこを何とかして「直接の被害者」である彼に感情移入出来るように持っていけば、作品全体が俄然盛り上がると思う。むしろ犯人側の手下たちの方がちゃんとキャラクターとして描かれているようで、それはそれで悪くないのだけれど、やはり少々ちぐはぐな印象を受けた。
 もう一つ残念な点。「ハリウッド映画って、どうしてこうも唐突に終わっちゃうの?」ということ。これはアメリカ映画全体の特徴なのかもしれないが、事件が解決したその瞬間にエンディングをむかえるというパターンが多いと思う。私としては「え?それで終わり?」と思ってしまうのだ。だってそうでしょう。作中、あの手この手で登場人物に感情移入するように仕向けておいて、最後は「事件が終わったから終わり」では観ている方はつんのめってしまう。おとぎ話にだって、「その後みんなは末長く幸せに暮らしました」という締めの一文があるのだ。せめてこれに類する余韻を残すエピローグくらいは見せて欲しいものだ。もちろん、もう少し工夫はして欲しいけど。(笑)

 それでもまあとりあえず、レンタルビデオで借りて観るくらいの価値はある作品じゃないかと思う。

1998/03/28
『身代金』
監督:ロン・ハワード

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