「意外に面白い」という評判を聞いて観てみたが、まさにその通り、意外に面白かった。
『13日の金曜日』以来綿々と作られ続けている「お約束系ホラー」であることは間違いないのだが、この作品ではその「お約束」を逆手に取ったり茶化したりすることに主眼が置かれていて、しかもそれがなかなかにうまく決まっている。
プロットは「若者系、『殺人鬼は誰だ』類」で全て言い尽くせてしまう。もちろん、そこまで単純で型にはまっているからこそ「お約束系ホラー」なのだ。この作品の良さは、出て来る人物全員が「ちゃんと怪しい」ところだと私は思う。「これ見よがしに怪しい奴は囮で、全く怪しくない奴、あるいはとくにこれと言った描かれ方をしなかった奴が犯人」というのが低級作品のお約束だが、本作では誰も「これ見よがしに怪し」かったりはしない。その代わり、ふとした時の目つきがヤバ気だったり、ちょっとした行動が妙だったり、台詞が過激だったり、犯人と似た靴をはいていたりと、「普通に怪しい」描写がそれぞれについてなされるので、観ている方としては混乱して来て、犯人の見当がうまくつけられない。中盤になるとようやく「全員について怪しい描写がなされるのだから、そもそもそこから犯人の見当がつくわけがないのだ」ということには気付くのだが、その頃にはもう単純にその後の展開を楽しむ気にもなっているという寸法だ。
単純なプロットの作品において「容疑者の中の二人が共犯」というオチは一種の禁じ手だと思うが、「お約束系ホラー」でこの手を使ったのはこの作品が最初かもしれないので、だとすれば許されて然るべきだろう。
ラストの「男二人対女一人の絶対的ピンチ」から主人公を救い出す展開がかなり無茶だったとは思うが、描き方自体がかなり無茶なので、逆にあまり気にならなかったのが面白い。元々リアリティを云々する作品ではないというのが、こういうところでは有利なのかもしれない。それにしても、ラストで主人公の少女がいきなり残酷な女になってしまうところが、やはりアメリカ的だなあ、と感じざるを得なかった。一方で、「低俗レポーター」の扱いは、ちょっと独特で面白かったと思う。
この作品では「ホラー映画のお約束」をどう料理するかがメインの題材になっているわけだが、実際に作中では随所でホラー映画に関して言及される。…というより、のっけから最後までやたらにホラー映画とそのお約束の話が出まくりなのだ。それ自体が「料理」のスパイスになっていたりもして、色々と楽しませてくれる。「映画好きのための映画」というのが時々あるが、この作品もその一本だ。
ホラー映画全般に対する愛情と、安易なホラー映画に対する皮肉とがたっぷりつまったこの作品は、そもそも恐がらせる気はないんじゃないかとすら思える部分があるが、楽しめることは間違いない。「お約束系ホラー」が好きな人には、文句なくお勧め。