【映画の感想】

『アナスタシア』
★★

 20世紀FOXが初めて制作した長編アニメーション映画。予告編を見る限りでは、同時期に公開されたディズニーの『ムーラン』よりもむしろディズニーっぽく見えて、なんだか妙な感じがしていた。『ムーラン』があからさまに「東洋」を意識した絵作りをしているのに対してこちらは素直にディズニーの流れを汲む絵柄で描かれているからなのだが、実際に観てみると「ああ、やっぱりディズニーじゃないんだ」と思うところが色々とあったのが面白い。
 最初に総合的な感想を言ってしまうと、「これだけのものを作ったのは大したものだと思うけれど、まだアニメーションというもの自体を作り慣れていないんだなあ」というところ。

 この作品で特筆すべきは、とにかく作画が非常に丁寧なこと。どのカット、どの一コマを取っても、ちゃんと絵としてサマになっている。膨大な手間と時間を費やして制作されたんだな、ということが実感出来る。しかし、だからアニメーションとして最高ということにはならない。アニメーションはあくまでも「動き」で見せるものなのだ。一コマだけ取り出すと妙にねじくれているとしか見えない絵が、実際に動きの中に入れると素晴らしく生き生きとした効果を出すということは、ディズニー以後のアニメーション制作においては常識だ。この「とても丁寧に作ってあるんだけど、アニメとしてはちょっと」という感想が、実はこの作品の全てにあてはまっているように私は思う。
 まず感じたのは、ミュージカルの「歌って踊る」シーンのノリが非常に実写映画っぽいこと。画面の作り方も人物のアクションも、実写のミュージカル映画(それもかなり古いやつ)のノリそのまんまなのだ。冒頭から大勢の人物が一斉に歌ったり踊ったりするシーンがあり、そのダンスは実にリアル。一瞬そのリアルさに感心するのだが、数秒後には「これなら、実写でやった方が見栄えがするんじゃないの?」と思ってしまう。要するに、アニメならではの絵作りや演出が決定的に欠けているのだ。『ウェストサイド・ストーリー』や『雨に歌えば』をそのままアニメ化したものなんか、誰も見たいとは思わないだろう。この作品の制作者はとにかくクオリティの高い作画を実現することで精一杯で、その辺まで考える余裕がなかったんじゃないかと思える。
 アニメならではの絵的な演出が足りないというのはミュージカルシーンに限ったことではなく、全体を通して言えることだ。そのため、人物同士の絡みで微妙な盛り上がりを見せるシーンなどは、どうも食い足りない印象になっている。実写映画ならこのあたりは役者の魅力と力量で見せる部分なのだが、それを全く同じ演出で真っ正直にアニメ化してしまっては策がなさすぎる。声優の演技だけでは、シーンとしての盛り上げ効果に限界があるというものだ。
 ただその一方で、キャラクターはかなりよく描かれているように思う。アナスタシアとディミトリだけでなく、サブキャラクターたちもとくに目新しい人物像ではないのだが、それぞれの性格や思い入れなどがかなり魅力的に描かれてる。これは脚本の良さもさることながら、前述の「アニメ的な演出の欠如」が逆に落ち着いて人物像を受け取る余裕を観客に与えているようにも思える。いやはや、映画作りとは難しいものだ。

 この作品でもう一つ残念なのは、全体を通しての二つの「違和感」だ。一つは、ディズニーアニメ的なファンタジーっぽい要素と実写映画的な要素の違和感。もう一つは手描きアニメ画面とCG画面の違和感だ。
 前述のようにこの作品では主人公を中心とした主要人物の描き方や画面の作り方、演出などが総じて実写映画的なノリで作られているのだが、悪役のラスプーチンとその手下(?)たちはいかにもファンタジーアニメからそのまま持ってきたというような描き方をされている。この間のギャップはかなり大きい。しかも、メインのストーリーに入ってからはこのラスプーチンが主人公たちと直接絡むことがなく、場面からして分離してしまっているので、両者の距離感がますます大きくなってしまう。さすがにラスト近くで直接絡んでは来るのだが、それまでのラスプーチン側の扱いが小さいこともあって、「ついに対決!」という感じにはならない。結局この作品ではアナスタシアがいかにして祖母と再会出来るかというストーリーの方に重きが置かれているため、相対的に悪役ラスプーチンとその企みは扱いが小さくなっている。このことに悪役キャラクターのみがファンタジーアニメのノリで描かれている違和感が加わって、いかにも取って付けたオマケという印象になってしまっている。悪役側のマスコット的キャラクターであるコウモリも、単にラスプーチンの話し相手になっているだけで狂言回しとしての役割を担ってはいないし、まさに「無理矢理マスコットを登場させました」という感じだ。
 一方から往年の実写ミュージカル映画を、一方からディズニーのファンタジーアニメを持ってきて、それらを合わせて一本の作品に仕上げることは仕上げたけれど、それぞれの持ち味を融合させて新たな魅力を引き出すところまで至らなかったということか。いや、それ以前に、持ち味を融合させるという時点ですでに問題が出てきているという感じだ。
 手描き画面とCG画面との違和感については、単純に技術的な問題だと思う。この作品では背景を中心にかなりCGが多用されている。そう、ただ漫然と見ているだけで「CGを多用しているな」という印象を受けてしまうのだ。これはつまり、手描き画面とCG画面の間の違和感が大きいということだ。手描きの人物のカットからCGによる船の大写しに切り替わったような時に感じる大きな違和感は、それこそ単純にCGによる画面作りの技術の問題だろう。それとは別に、手描きによる人物とCGによる背景が合成された画面で感じる違和感は、もう少し根の深いものだと思う。合成画面が、いかにも合成画面然としているのだ。つまり、一枚の絵の要素としての画面が重ねられているという印象ではなく、本当に何枚もの絵が重ねられているように見えて、「どこを見ていいのかわからない」状態なのだ。手描き画面は手描き画面で、CG画面はCG画面で、それぞれにしっかりと絵として作ってしまったものを無理矢理重ねているという感じ。恐らくは、手描き作画とCG作画のチームがそれぞれ共通のイメージを目指して画面作りをするという仕組みが完全には機能していないのではないかと思う。この辺りにも、制作者の「不慣れ」や「余裕のなさ」を感じる。

 結局のところ、この作品の不満点はとにかく「不慣れ」で「余裕がない」という印象にまとまっている。逆に言えば、それ以前にどうこう言いたくなるような大きな問題もなく、今後の作品に大いに期待できるということでもあると思う。この作品でも人物の魅力の伝わり方などディズニー映画にはあまりない良さが感じられることでもあるし、不満点が多い一方で全体としては好印象だった。
 本当に、これからの作品に大いに期待したい。

1998/10/03
『アナスタシア』
監督・製作:ドン・ブルース/ゲイリー・ゴールドマン
脚本:スーザン・ゴーシエ/ブルース・グラハム/ボブ・ズディカー/ノニ・ホワイト
配給:20世紀フォックス

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