【映画の感想】(ビデオにて鑑賞)

『ピースメーカー』
★★★

 金髪美人のエリート学者と無頼漢だが正義感の強いタフな軍人とのコンビが、核テロリストの企てに立ち向かう。この図式だけ見たら、ストーリーから演出から交わされる会話の内容まで予想がついたような気がしたあげくに背筋に寒気がして逃げ出したくなるというものだが、まあ逃げ出さなくて良かった。
 この作品は、はっきり言って上記のようなありがちなプロットのありがちなストーリーが展開されるありがちなアクション&サスペンス映画なのだが、ただそれだけのありがちな作品よりも一段上を行っている、比較的上質の娯楽作品に仕上がっていると思う。
 単なるありがちな作品となにが違うのかと言えば、それは「よく考えられている」という一言で済んでしまう話なのだが、それだけではあんまりなので、もう少し具体的に考えてみよう。
 こういった娯楽作品の質を左右する要素で最も大きいのは、「リアリティ」だと思う。これは私の持論なのだけれど、フィクション作品における「リアリティ」というのは、一般的に考えられている「現実感」とはちょっと違うものだ。それは、「これは現実にありそうだ」と思わせる実在感のようなものではなく、「これがもし現実にあったら、きっとこうなんだろうな」と思わせる説得力のようなものだ。それを醸し出すのはちょっとした小道具に感じられる生活感であったりキャラクターの人間臭さであったり、ストーリーの適当な意外性であったりするのだが、それらはつまるところ作り物である世界観の説得力を増し、独自の「リアリティ」を作り上げ、観客を物語に引き込むパワーとなる。作品によってはリアリティのなさを前面に押し出して独自の世界観を作り出すようなことも行われるが、アクションやサスペンスを売り物にした娯楽作品では、やはりこのリアリティがどれだけあるかが作品の質の高さのバロメーターになるように思える。
 ということでつまり、この作品にはその辺にいくらでも転がっている質の悪いアクション映画よりも一段上のリアリティが感じられる、ということだ。しかし、それは決してとことんまでリアルさを追求した結果生じたものではなく、あくまでも娯楽目的のご都合主義的な世界観をよりじっくりと吟味することによって生じたものだと感じられる。この辺の感覚は、日本のマンガに近いような気がして私には馴染みやすいし、個人的にも好きな方向性だ。
 まず好感が持てるのは、主役の二人がお決まりの「いがみ合いながらも段々と仲良くなってやがて恋に落ち」たりはせずに、あくまでも目的のために反発しあいながらも協力してコトに当たっていること。つまりは二人が「ちゃんと仕事をしている」のだ。質の悪い作品では大抵のキャラクターが公私混同しまくりで、個人的な感情から作戦を変えてしまったり、相手への反発からその行動に反対したり、無茶し放題の挙げ句に力技や偶然で危機を乗り切ってしまったりする。こういった、個人的な問題と仕事上の問題、ひいては人類の危機までを同じレベルでごっちゃにして扱ってしまうというのがつまりはアメリカ的能天気なわけだが、この作品ではそれがなりを潜めている。タフガイの大佐は上司である金髪学者を半分無視したりはするが決して独断専行しないし、金髪学者はタフガイ大佐を単細胞扱いしたりはしない。現場の判断ですぐさま出動したがる大佐を上司である金髪学者が押し留めるというありがちな図式のシーンがあるが、ここでも大佐は猪突猛進せずに出動許可が出るまで待機するし、金髪学者の「責任ある立場の辛さ」がしっかりと描かれたりもする。更には金髪学者が「その他大勢」の味方兵士の死を3カット以上使って悼んだりもするのだ。これは、質の低い作品ではまず見られないことだ。そう言えば、タフガイ大佐と宿敵らしき悪役との「ありがちなレスリング」がその他大勢の兵士の狙撃で決着する場面などもあって、これも適当な意外性が好印象だった。

 そんなわけで繰り返しになるが、この作品は非常に単純でありがちなプロットを、それなりによく考えられたリアリティでグイグイと見せてくれる、比較的上質の娯楽作品だ。
 一つ残念なのは、犯人役の設定に中途半端に悲哀を持たせてしまったため、ラストで事件が解決した時にあまり爽快感がなかったこと。犯人のキャラクターの描き方などは結構いい感じだったのだが、その設定の重苦しさに対しては描き込みが足りず、半端な悲壮感だけが先に立ってしまったような気がする。やりたいことはよくわかるし共感もするのだが、結果的にはもっと単純な「わるもの」にしてしまうか、もっと気合いを入れて悲壮感を盛り上げるかした方が良かったように思える。

 ともあれ、「このテ」の映画が好きな人には、とりあえず一見の価値がある作品だろうと思う。

1998/10/05
『ピースメーカー』
監督:ミミ・レダー
製作:ウォルター・バークス/ブランコ・ラスティグ
製作総指揮:ローリー・マクドナルド
脚本:マイケル・シーファー

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