予想していたのとはだいぶ違った趣の映画だった。もっと重苦しい雰囲気の作品かと思っていたのだが、こんなにコメディ・タッチだったとは。もっとも、コメディ・タッチと言ってもこの作品はスラップスティックな笑いを狙っているわけではなく、「死」や「悲しみ」を明るく気楽に、しかも真正面から扱っているということのように思える。こういう視点は、日本映画界には全然ないんじゃないだろうか。私は、こういう描き方はとても好きだ。
そしてとにかく、主演のジャン・レノがいい味を出している。正直言うと私は映画でジャン・レノを見るたびに、「果たしてこの人はそんなにいい役者なんだろうか?」と疑問に思ってしまうのだが、実際にどの映画でもいい味を出しているので、何とも言えなくなってしまう。ということは、やはりいい役者なのかもしれない。まあ、そもそも私がどうこう言うことではないか。(笑)
この作品のラストの展開は痛快であると同時にちょっと納得出来ない部分が残ったりもするが、よくよく考えてみるとこの作品で特筆すべきはそんなところではないように思えて来る。私がこの作品を気に入った最大の要因は、登場人物の「顔」なのだ。これはキャスティングが凄いのかメイクが偉いのか撮影が巧いのか、とにかく結果として登場人物の顔が、それぞれのキャラクターにおいて「もうこれしかない」という風に見える。絵的に非常に優れたマンガを見ているようだ。ジャン・レノ演じる主人公をはじめとして、妻、妻の妹、その恋人、そして敵役(?)などまで、ゾクゾクするくらいに「ハマッた」顔をしている。こんな風にガッチリ出来上がった画面を見せられたら、多少の強引さなど気にならなくなるのも自然な感覚というものだろう。(ほんとか?)
この作品は基本的に万人向けでありながら、観た人によってかなり感想が違いそうにも思える。出来れば色々な人の感想を聞いてみたいところだ。