知り合いの方から招待券をいただいたので、何の予備知識もなしで観に行ってみた。予告編すら見たことがなく、完全に何も知らない状態で映画を観るということは滅多にあるものではないので、まずはその意味で面白い経験だった。主人公が自転車に乗って走っているオープニングではほとんど何も判らず、自転車が校門をくぐって初めて学校ものであることが判り、主人公が教師であることが判っても果たしてこれから青春物語が展開されるのか、はたまたバイオレンスが展開されるのかすら判らないというのは、ある意味では当たり前のことではあるはずなのに、私としては妙に新鮮で、かつ少々不安な気分だった。
実際の内容は、リアル路線のバイオレンスとでも言おうか、非常にペシミスティックに現在のアメリカのハイスクールの殺伐とした状況を描くものだった。主人公の教師が生徒に刺されて重傷を負うところから始まるこの物語は、あまり救いのない過酷な現実を観客に突きつける形になっている。画面の雰囲気は比較的淡々としていて、かなりエキセントリックなキャラクターや情景を、意外に素直な形で描き出している。主人公の真面目な教師が時折見せる謎めいた雰囲気もなかなか良く出ているし、ストーリーの展開や伏線の張り方もうまく決まっている。
全体としてかなりよくまとまっていて、あまり押しつけがましくない印象でメッセージ(というより問題提起か?)を強調することに成功した佳作だと思う。だが、そのメッセージというのがとにかく「ほらほら、こんなにヒドイんですよ」ということに終始してしまっているため、閉塞感だけが大きくなってしまっているようにも思う。単純に「最近の若者は無茶苦茶で何を考えているかわからない」という年寄りの愚痴に走るのではなく、無茶苦茶な若者をそれでも人間として捉えて周辺の状況にまで目を向けさせるように持って行っているのは立派だと思うのだが…。
実を言うと私が一番気に入らなかったのは、映画のラストで「この作品は現役の教師が執筆した」というようなテロップが出たこと。それがこの作品の価値を上げることになると制作者側が考えているのだとすれば、私としては逆に「その程度の考えで作った作品だったわけ?」と思ってしまう。そして、その教師がこの作品で訴えたかったことが「こんなにヒドイんですよ」だけなのだとすると、それが一番救いのないことなんじゃないかと思えてしまうのだ。