【映画の感想】(TV放映にて鑑賞)

『ラヂオの時間』
★★★

 TVドラマの脚本、舞台劇の演出で有名な三谷幸喜氏が監督したコメディ映画ということで、劇場公開の時から興味は持っていた。ノーカットのTV放映で観てみた率直な感想は、「良くも悪くも期待通り」。
 面白いという意味では、かなり面白い。ギャグを含めた適切な演出が適切に決まっていて、何度も笑わされてしまった。少々滑っていると思われるところもなくはないが、演出そのものがキッチリしているため、その滑り方も許せる範囲に収まっている。コミカルな演出を得意とする監督の面目躍如といったところだろう。
 気に入らない点は、とにかく内容がないこと。内容がないこと自体は悪いとは思わないのだが、この作品の場合は内容がないということをごまかそうとするような要素が散見されるところが、ちょっと引っかかる。キャラクターの心情を吐露する切実なセリフとか、ちょっと「泣かせ」気味の展開とか、ラストに用意される「救い」の要素とかの演出が、ことごとく空しいのだ。これらはやはり適切なやり方で適切に繰り出されるため、キチンとした効果を上げている。にもかかわらず空しく感じられるのは、それらが作品のテーマとして語られるのではなく、明らかに「ありがちな単なるオカズ」として用いられていることが明白に伝わって来るからだ。要するに、キャラクターの心情も泣ける演出も、作品の中での扱いが明らかに軽いため、切実さがないのだ。おそらくこれらは内容がないことをごまかすためではなく、本当に単なるエンターテイメントとしての演出の一環として用意されているのだろうと思うが、それでは逆にギャグを相殺してしまうと私は思う。真剣な演出が切実であれば、そこから「切実なギャグ」が生まれたりして相乗効果が出ることもあるが、単なるオカズとして「真剣さ」を適当に織り込まれたのでは、空しさばかりが大きくなってしまう。
 どうせ内容がないのなら、「ギャグのためのギャグなんだから何やってもいいじゃん」というスタンスで突っ走るとか、キャラクターに妙な味を持たせることに注力するとか、観客の裏をかくことだけを考えるとか、何か極端でインパクトの強い要素が欲しい。この作品は、内容がないくせにやたらキレイに無難にまとまっているので、かなり面白いのに一方で「だから何?」という印象が強くなってしまう。
 そしてそれは、三谷幸喜氏の脚本によるTVドラマの印象にも非常に近いのだ。

1999/06/30
『ラヂオの時間』
監督・脚本:三谷幸喜
原作:三谷幸喜と東京サンシャインボーイズ
製作:村上光一/高井英幸

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