うーん…、唸っちゃうぞ。
この作品の前評判は何だか色々な意味で物凄かったが、観てみての印象としては、それが完全にマイナスだったように思える。敢えて断定的な言い方をしてしまうと、この作品には映画として光るものがあるのだが、前評判(と前宣伝)から思わず期待してしまうようなものは、何一つなかったのだ。だから、観てみて拍子抜けという印象がやたらに大きくなってしまい、せっかくのこの作品の良い点に目が行きにくくなってしまっているように思える。Webサイトや書籍と合わせて楽しむメディアミックスの面白さも話題になっているようで、それはそれで価値のあることだと思うが、もし映画だけで楽しめないのであれば、映画作品としてはマイナス点だと私は思う。
この作品の「臨場感」は、大したものだと思う。映画そのものがドキュメンタリーという設定も、グラグラするハンドカメラのざらついた映像も、全てはそのためのものなのだろうし、それが実際に効果を上げているというのは、かなり凄いことなんじゃないだろうか。その臨場感から来る「怖さ」も、また大したものだ。近年、これだけ「怖さ」を感じさせてくれる映画を見たことはなかったと思う。子供の頃『エクソシスト』を観た時に感じたチビッちゃうような怖さとはまた別種の、ある意味ではもっと大人しい、ある意味ではもっとリアルな怖さが、この作品からは感じられた。これだけでも観た価値はあったと思う。
…そして、それ以外には何もなかった。要するに、この作品は「それだけ」の映画だったのだ。それはそれで別に構わないと思うのだが、上記のように前評判が物凄過ぎたための拍子抜けが大きかった。正直に言うと、私は映画が終わってスタッフロールが始まった瞬間にズッコケてしまった。
考えてみると、個人的に一番残念だったのは、そもそもの基本設定が不完全だったことだ。「森で行方不明になった三人の学生が撮影したテープが一年後に発見された」というのはいいのだが、一体それは、誰がどういうシチュエーションで発見したのか?この映画がそのテープを編集したものだという設定なら、誰がどういう方針で、何のために編集したのか?そういうことを全く語らないまま終わってしまっては、「結局のところ理屈無用で、設定は単なるオマケ」ということになってしまう。それではせっかくの「リアル感」が大幅割り引きになってしまうんじゃないだろうか。少なくとも私にとってはそうだった。
また、主人公たちが「凄い」とか「こんなの初めてだ」とか言いながら一生懸命撮影していた「積み上げた石」とか「木の枝のオブジェ」とかが、私には子供のいたずらにしか見えなかったことも大きなマイナス点だったかもしれない。何が「凄い」んだか全然わからなかったし、もちろんちっとも無気味にも感じられなかった。この辺は低予算故ということかもしれないが、もうちょっとセンスで何とかなるんじゃないかと思えて仕方がなかった。
結果論を言えば、客観的に見るとこの作品は私にとって「見る価値のある映画」だったのだが、同時に「観て損した気分になる映画」でもあったのだ。だから前宣伝の仕方が悪いとかいう野暮は言いたくないが、とにかく何とも複雑な心境だったりする。
あともう一つ、これは蛇足といえば蛇足だが、私はこの作品を劇場のかなり前の方の席で観てしまい、非常に後悔した。この作品は終始グラグラするハンドカメラの映像で構成されていて、全く安定しない。私は中盤あたりからちょっと気分が悪くなってしまった。映画が終わってから、トイレで吐いていた人もいるそうである。これから観に行く人は、そこのところを考えに入れておいた方がいいかもしれない。