【映画の感想】(ビデオにて鑑賞)

『ノッティングヒルの恋人』
★★★

 ロマンチックな恋愛映画。これだけで全てを言い尽くしてしまえそうな気がする。この作品には「ロマンチックな恋愛映画」一般が当然のように持っている、ユーモアと、解りやすい人情味と、純粋な情熱と、安易さと、説得力のなさを持っている。
 そもそも、出会い頭にぶつかってジュースをこぼしてしまうのが主人公とヒロインが接近するキッカケとなるなんていうプロットを臆面もなく描いていることが、この作品全体を象徴していると思う。「今時そんなのアリ?」と思ってしまうような、古臭い、だからこそ安心して心地よく楽しめる恋愛物語がこの作品の骨格であり、結果的にはそれが全てなのだ。単純にそれだけで終わらないようにという意図と思われる色々な工夫が見られはするが、私にはそれらが添え物のオカズ以上の効果を上げているようには見えなかった。
 有名女優であるヒロインは主人公にとっては当然雲の上の存在なのだけれど、個人的に惹かれ合ってからはそれと同時に一人の女性でもあるようになり、その二重性とギャップに戸惑う主人公の心の動きというものが一つの柱になっているはずなのだが、どうもその辺が半端にしか伝わって来ない。そもそもヒロインが「有名女優だけれど一人の生身の女」なのだという点の説得力が圧倒的に足りないのだと思う。まず最初にどうして主人公に惹かれたのかというところから全く不明だし、その後の行動も一々不可解でやたらと身勝手なばかりに見え、ほとんど感情移入出来ない。主人公の方はとくに面白味はないもののそれなりに丁寧に人物が作られているし、サブキャラクター達もそれぞれに作為的ではあるが引き立て役として充分機能している。だが、この作品のプロットでは何よりもヒロインに感情移入出来ないと感動出来ないんじゃないかと思う。この点がもっと何とかなっていれば、とてもいい作品になったのじゃないかと思えて、残念だ。

 そういうわけで、この作品は単によくある「ロマンチックな恋愛映画」でしかない代物になってしまっているけれど、それはそれで気分良く楽しんで観られることも確かだろう。「そういう代物」が好きな人は沢山いるだろうし、私もべつに嫌いではない。

2000/04/30
『ノッティングヒルの恋人』
監督:ロジャー・ミッチェル
脚本:リチャード・カーティス
撮影:マイケル・コールター
音楽:トレバー・ジョーンズ

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