【映画の感想】(ビデオにて鑑賞)

『ゴールデンボーイ』
★★★

 原作の中編小説はスティーブン・キング作品の中でも個人的にかなり好きなものなのだが、絵的な派手さのないストーリーである上に、内容的にかなり「ヤバイ」要素を含んだ作品でもあるので、映画化されたと聞いた時にはかなり驚いた。映画『ショーシャンクの空に』が成功して以来、何かが変わったのかもしれない。

 主人公役の俳優は、かなりハマっていると思う。原作に比べて「ゴールデンボーイ」というタイトルの説得力がやや薄いところを、この俳優のルックスがかなり補っているように思える。ドゥサンダー老人の方は原作のイメージとだいぶ違うが、それでも俳優の地力なのか、結構いい味を出している。個人的にはもっと知的な鋭さのようなものが欲しかったという気がするが、それなりの雰囲気を醸し出すこの俳優の演技には、なかなか引き込まれるものがある。
 作品全体を流れるトーンというか空気感のようなものは、かなり良く出ていると思う。主人公の中に何かが抑圧されているという雰囲気を感じ取れるくらいには、演出がうまく行っているということなのだろう。しかし、言葉で表現出来ないのだから当たり前と言えば当たり前だが、その「抑圧された何か」が非常に漠然としていて、切迫感も今一つ伝わって来ない。この状態でどうやってラストの展開まで持って行くのかな、ビジュアル面で何か説得力を増すような演出が加わるのかな、などと思いながら観ていたら…愕然。ラストが原作とまるで違うのだ。
 点になった目でスタッフロールを見ながら考えてみると、確かにこういうラストもアリだとは思えた。全体の完成度は、まあ、悪くないかもしれない。しかし、こうなると作品全体が原作とは別物という印象になってしまう。果たしてこれは、本当にこういう狙いなのだろうか、それとも、何らかの事情で「ヤバイ」ラストを描けなくなってしまったことによる苦肉の策なのだろうか、と邪推してみたくもなったりする。
 そんなこんなで私の考えは右往左往してしまっているので、正直なところこの作品に対する評価が私の中ではかなりあやふやなままだ。とりあえず言えるのは、少なくとも「観られる」レベルの作品ではあるということくらいだろうか。
 うーん、やっぱり私は、原作の方が好きだなあ。

2000/07/09
『ゴールデンボーイ』
監督:ブライアン・シンガー
原作:スティーヴン・キング
脚色:ブランドン・ボイス
製作:ジェーン・ハムシャー/ドン・マーフィー/ブライアン・シンガー

to TopPage E-Mail