面白い。社会派ドラマとしての現実感と、映画作品としてのエンターテイメント性のバランスが実にうまく取られていると感じる。
この映画は、4人(見方によっては3人?)の主人公がそれぞれ異なった立場から巨大麻薬密輸組織にかかわって(立ち向かって?)行く姿を描くことによって、アメリカとメキシコにおける麻薬問題の本質を生々しく伝えるという趣向の作品である。下手をするとTVの安易なドキュメンタリー番組みたいな代物になってしまいそうな企画だと思うのだが、そこをしっかりとドラマ作品として楽しめるように仕上げてあるところが、まずエライ。そしてその一方で、社会問題を活写するというドキュメンタリー番組的な趣向もしっかりと実現しているのだから感心する。ドラマ性の高さ故に、ドキュメンタリー的な要素に押しつけがましい印象がなく、私のようなひねくれ者でも素直に楽しむことが出来た。主人公が複数いるという、観る方からするとやや面倒臭い印象になりがちな趣向も、「社会問題は社会の問題なんだから、一つの視点だけから見ていても意味がないんだよ」という主張がストレートに伝わって来る感じで、大いに納得出来る。
ただ、そんな構成になっているためにストーリーが解りにくいという懸念からか、同時進行するサブストーリーごとに青だの黄色だののカラーフィルタを画面に被せるという措置が取られているのだけれど、これについてはちょっとばかり違和感を感じた。そもそもここまで極端なことをしなければならないほど複雑なストーリーとは思えないし、よしんば何らかの措置が必要だとしても、場面転換の回数を減らすとか、場面転換の時には一拍リズムを遅らせて観客がついて来る手助けをするとか、もっと普通の演出上の配慮が色々と考えられると思うのだが。
ともあれ、この作品の最大の魅力は、少々の違和感など吹き飛ばすほどの勢いで全体に溢れる、妙な説得力だと思う。これはつまり、リアリティだ。このリアリティが、現実にある要素をそのまま現実として描くことではなく、現実に存在する要素をあくまでもフィクションとしてのドラマ性とキャラクターによって昇華させた結果として生み出されているところが、個人的には大いに好印象だ。教育目的の作品ではないんだから、やはりこうでなくちゃ、と思うのだ。
考えてみると、これもまた製作者側の微妙なバランス感覚の賜物ではないかという気がして来る。愚かな行動に走るキャラクターの愚かしさも、ステレオタイプなキャラクターのステレオタイプな台詞も、それぞれにそれなりの説得力を持ちつつ、押しつけがましい印象にならないところでうまく踏み止まっている。だから観ている方としては自然に納得させられてしまうのだ。
だとすると、この作品の美点はとにかく徹頭徹尾、バランス感覚に優れているところ、ということになるのかもしれない。
この作品にはスカッと「めでたしめでたし」なハッピーエンドはもちろんないし、その意味では単純なエンターテイメント性を求めて観るのは少々キツイ映画ということになるのかもしれない。しかし、ラストにはしっかりとドラマとしての救いの要素が用意されていたりして、個人的にはかなりスカッと観終わることが出来た。この辺もやはり、絶妙のバランス感覚と言えそうな気がする。こりゃまた大したものだ。いやほんとに。