【映画の感想】

『モンスターズ・インク』
★★★☆

 なかなか良かったと思うし、ある程度は素直に楽しめたが、私としてはストーリー的にも『トイ・ストーリー』の方が好きだな。
 それでもなんだか、この作品は巷では物凄く評価が高いらしい。実際、観客動員数もかなり長い間上位にランキングされている。どうしてなんだろう。
 どうやらその大きな要因の一つは、ヒロイン(?)「ブー」の存在らしい。彼女の動作や話し方(?)、仕草などに「ヤラレ」てしまっている人がとても多いらしいのだ。確かに、声も含めてブーの所作は適度にリアルに仕上がっていて、よく出来ていたと思う。でも、私としてはその造形の人形っぽさやカートゥーン・アニメ的な重量感のなさがかなり気になったりもして、そこまでヤラレるには至らなかった。まあ、元々とくに子供好きではないというのが大きいのかもしれないが…。
 もう一つ、この作品のストーリーは私に言わせればあまりにも型にはまっていて、『トイ・ストーリー』のそれよりも楽しめなかったのだが、どうも巷ではそれが逆にイイと評価されているフシがある。セオリー通りのお涙頂載劇に、素直に泣けたということらしい。まあ、演出上の必殺技としての「子供」を素直に受け入れたからには型にハマリ切ったストーリーも素直に楽しみましょう、というところではあると思うが、せめて何かもう一捻りないとうまく感情移入出来ないんだよなあ、などと思ってしまう私はひねくれ者なのだろうか。

 そもそものアイディアとしての「クローゼットの向うのモンスターはサラリーマンだった」というのは大して斬新なものではないにしろ、こうして見事に映像化されたことによるインパクトは、なかなかのものがあると思う。ちょっと日本のロボットアニメや特撮モノを思わせるメカっぽい演出もキレイに仕上がっているし、世界観にうまく溶け込んでいる。どうせならもっと人間臭い生活感があっても良かったんじゃないかと思うが、その辺はまあ好みの問題だし、演出上のバランス感覚というものだろう。
 個人的に感心したのは、主人公サリーのビジュアル的なデザインだ。大きくて強そうで、吠えると恐ろしい顔になり、でも基本的に優しそうで可愛らしい、というのが要件になると思うのだが、それが実にうまく実現されている。まあ自然界にはライオンとか熊とかのお手本があるので、革新的とまでは行かないが、これはなかなかのものだと思う。加えて、これは動物じゃなくてモンスターなんだということを強調するためだと思われるややサイケなカラーリングも、確実にその効果を上げつつ自然に許せる範囲で収まっているという、なかなかのバランス感覚で仕上げられていると感じる。この辺が、さすがディズニーというところなのだろうか。もちろん、大変なデータ量を投入して実現したという「フサフサ感」も、大したものだと思う。

 気になった点としては、そもそもの設定としての図式がイマイチ伝わって来なかったこと。子供の悲鳴がエネルギーとして利用されていて、それが近頃うまく得られなくなって困っているというのは説明的に解るのだが、それが素直に実感として伝わって来る演出が足りなかったように思う。実際に悲鳴エネルギーが日常的に利用されている様子とか、それが値上がりしたり不足したりしていることによる生活の変化ぶりなどを、もっと具体的に見せて欲しかった。ファンタジーものの説得力というのは、そういうところから生まれると私は思うのだが。
 加えて、子供は危険な病原体であるというのが定説になっているというのも、一体誰が、どんな思惑で、どうやってそうしているのかというのが具体的に見えていないため、単にドタバタを盛り上げるための方便でしかないような印象にもなってしまう。というより、実際にはそうなのだと思うが、具体的な演出による説得力で、そのことをもっとうまくごまかせると思うのだが。
 もう一つ気になった点として、中盤やクライマックスのアクションシーンが、ちょっと暴力的過ぎないかなあ、ということ。いや、私としては暴力シーン大好きだし(おい)、不自然にそれを避けるような演出はむしろ最低だと思うのだが、この作品においては「モンスターなんだからイイじゃん」という部分があるような気がして、それがちょっと気になるのだ。この辺はいわゆるカートゥーン・アニメからの流れを汲むノリということでもあるのだろうし、独特の感覚があるのもある程度理解は出来るのだが、やはりこれだけ「有害情報」が取り沙汰されるご時世なのだし、であればなおさら暴力は暴力として、ごまかしたり適当に流したりせずに、キッチリ描かなくてはいけないと思うのだが。

 逆に気に入った点としては、ラストの扱い。一見これは典型的なハッピーエンドのように見えるかもしれないが、実はそうでもない。「悪者が排除され、最大の危機が回避された以外は、全て元の鞘に収まる」というのが王道かつ安易なセオリーによるラストというものだ。この作品ではそうなっておらず、意地悪に考えられたらちょっと言い訳の出来ないような展開を敢えて貫いて、よりハッピーな方向でストーリーを結んでいる。これは一歩間違うと単なる大嘘になってしまう危険をはらんだ演出なわけだが、この作品では結構うまく決まっているように思う。安易なセオリー通りの結びを避けたという意味も含めて、私としても好印象だ。

 最初に書いた通り個人的な評価としては残念ながら『トイ・ストーリー』よりも落ちるということになってはしまうが、この作品の監督(スタッフ?)の次回作が公開されたらぜひ観に行きたいと素直に思える程度には、私もこの作品を気に入っている。願わくば、次の作品が『モンスターズ・インク2』でないことを期待したい。

2002/03/22
『モンスターズ・インク』
2002年 アメリカ作品
監督:ピート・ドクター
製作:ダーラ・K・アンダーソン
製作総指揮:ジョン・ラセッター/アンドリュー・スタントン
脚本:ダン・ガーソン/アンドリュー・スタントン
音楽:ランディ・ニューマン
声の出演:ジョン・グッドマン/ビリー・クリスタル/メアリー・ギブス/ジェームズ・コバーン

to TopPage E-Mail