このところ、米司法省がMicrosoftを提訴したことが大きな話題になっている。その前には、SunがMicrosoftを告訴したことが話題だった。とくにアメリカではこの手の話は日常茶飯事なので、「みなさんお盛んねぇ〜」と冷ややかに見ている人も多いのではないかと思うが、上記の二つに関してはかなり一般ユーザーにも身近な話だと思うし、個人的に興味を引かれる部分も多いので、ちょっと思うところを書いてみようと思う。ついでに(?)、Office97のアップデート差分配布の問題についても少し。
まず、SunがMicrosoftを告訴した問題から。これは、Javaの親玉であるSunが、Internet Explorer(以下ではMSIEと表記する)4.0におけるJavaの実装に問題があり、SunとMicrosoftの間で交わされているライセンス契約に抵触するとして、Microsoftを告訴したという事件。
訴訟そのものに関しては要するに契約違反があったかどうかということになるので私には何とも言えないが、興味深いのはこの事件でSunとMicrosoftのJavaに対する見方の違いが非常に明確になったことだ。結論から言うと、SunはJavaをネットワークコンピューティングにおける共通プラットフォームとして育てようとしているのに対し、MicrosoftはJavaをプログラミング言語とその実行環境として見ているということのようだ。
主に問題となっているのは、互換性の問題である。Sunは「Javaで作られたアプレット(アプリケーション)は、Javaが実行できる環境ならばどこへ持って行っても正常に動くことが保証されなければならない。そうでなければJavaではない。」と言い、Microsoftは「Windowsでしか動かないJavaアプレットがあってもいいじゃないか。開発時にWindows専用か汎用かを選べるようにしてあるんだから問題ない。Windowsソフトの便利な機構をJavaで利用できる方がユーザーにとっては嬉しいはずだ。」と言っているわけだ(これはあくまでも私がそう解釈しているということで、SunやMicrosoftが本当にこう言っているわけではない。以下も同様。念のため)。どちらにも「今後のネットワークコンピューティングに関するソフトウェアプラットフォームの主導権を握りたい」という生臭い思惑が当然あるわけだが、ここではそれは無視して、純粋に主張の内容を考えよう。
ネットワークにおけるユーザーの混乱を極力なくすという意味では、Sunの主張に理がある。自分のコンピュータがJavaを動かせる環境であれば、ネットワークで流通するJavaアプレットをどれでも安心して実行できるという状況を、Sunは理想としているわけだ。一方Micorsoftは、Windowsネイティブの機能を利用したWindows専用アプレットを作れるようにして、通常ならJavaではなくC++などで書かれるようなソフトもJavaで書けるようにしようとしている。つまり、ほとんどのパソコンでWindowsが使われているという現状を前提として、「Javaさえ覚えれば大抵のソフトが書ける」という状況を作ろうとしているのだ。これはこれで、開発者にとっては大きなメリットがあるだろうし、WindowsユーザーはWindows専用アプレットを使えば互換アプレットよりも速かったり機能が多かったりするということになる。
結局ユーザーにとって好ましいのはどちらの主張なのかというとかなり難しいのだが、私は結局はパフォーマンスが問題になるのじゃないかと思っている。「どこでも動く」Javaアプレットの実行速度が遅くて、当面の用途が大きく限定されてしまうようだと、ユーザーは「Windows専用でもいいから速いアプレットを使いたい」と思うだろう。そうなればMicrosoftの考え方が正しかったことになる。逆に互換アプレットの実行速度が充分なものであれば、ユーザーはそれが互換アプレットかWindows専用アプレットかなんてことにはこだわらないだろうし、こだわられないのであれば全部互換だった方がいいに決まっている。つまりはSunの考え方が正しかったことになる。ただ、そうなったとしても開発者にとって「とりあえずJavaだけで何とかなる」という状況は有り難いだろうから、Java言語によるWindowsネイティブの開発環境「Visual WinJava」なんていう処理系をMicrosoftは出してもいいんじゃないかな。
そういうわけで、後者のシナリオになることを、ユーザー(かつアマチュア開発者)である私としては祈りたいところだ。…って、まだJavaが実用段階に来ていないような言い方をしてしまったが、その通り、私はJavaはまだ立ち上がっていないと思っている。Java開発者の数は飛躍的に増え、既にかなりのJavaアプレット(アプリケーション)が実際に使われていることは知っているが、それはあくまでも特定用途(主にイントラネット)での話だ。インターネットの各種Webページでもかなり使われているようだが、まだまだ「Javaならでは」という使われ方はほとんどされていないし、それどころか「どう使えばJavaを生かせるのか」というノウハウもほとんど確立されていない状況に見える。「結局、ああだこうだと騒ぐだけ騒いでいるうちにイントラネットでしか使われないまま終わっちゃうんじゃないか」と見る人もいる。私も、最近ちょっとそんな気がしてきていることは確かだ。
クロスプラットフォームでプログラムを動かせるJavaは、ユーザーにとっても開発者にとっても大きな魅力のあるもののはずだ。なんとか知恵と勇気で混乱を乗り越えて欲しいものである。
次に、米司法省がMicrosoftを提訴した問題。これは、Windows95をプリインストールしたパソコンを製造・販売しているメーカーに対してMicrosoftがMSIEのバンドルを強要したことが独占禁止法違反にあたるとして、米司法省がMicrosoftを提訴したという事件。
これを聞いて日本の公正取引委員会も慌ててマイクロソフト株式会社(Microsoftの日本法人)を調査することを「検討」し始めた、なんていうトホホな話もあるが、そんなのはこっちへ置いといて…。
問題になっているのは、要するに「Windowsに最初からMSIEがバンドルされちゃったら、他のブラウザメーカーは商売あがったりになっちまう」ということ。これに対するMicrosoftの言い分は、「もはやインターネットにつながらないパソコンなんて考えられないのだから、既にMSIEはWindowsの一部なのだ。」というもの。もしMSIEがWindowsの一部なら、どうして全てのWindowsユーザーにMSIEを無償で送付しないのか、と私なんかは思ってしまうが、MSIEが元々無償で提供されているソフトであるということで、この主張にもそれなりの説得力は認められる。
しかしまあ、ユーザーにとってはMSIEがWindowsの一部かどうかとか、バンドルが独禁法に引っかかるかどうかなんてことは本来どーでもいいのであって、問題はWindowsにMSIEがバンドルされることがユーザーにとって良いことかどうかなのだ。私の考えは、「バンドルは結構だがプリインストールはイヤ」である。
MSIEはバグが多くてとても不安定なソフトだし、ユーザーインターフェースもあまり良いとは言えない。しかし、これはNetscape Navigator(以下ではNSNと表記する)も似たり寄ったりだ。Windows95上で使っている時に一般保護エラーなどで強制終了を食らう確率はNSNの方が高いかもしれない。MSIEにはセキュリティの観念が薄く、ハッキングやクラッキングを容易に行われてしまう穴が沢山あることも報告されていて、この点についてはNSNの方がかなりマシなようだ。しかし、個人ユーザーがダイヤルアップで時々ネットサーフィンするというような使い方の場合はハッキングやクラッキングの被害に遭う可能性は(現状では)かなり低いし、そういう多少の危険に目をつぶっても無料で提供されているMSIEを使いたいという人がいれば、まあそういう考え方もあるだろうと思う。ブラウザとしての機能・性能は、MEIEもNSNも一長一短あってどちらが良いとは言えない。HTMLへの対応の幅広さと柔軟性ではMSIEが上だろう。
そうではなく、MSIEの本当の問題点は、勝手にシステム設定をいじったりDLLを書き換えたりしてWindows自体の動作を不安定にしてくれることなのだ。最近では大きな不具合はかなり修正されて、Windows自体が不安定になるということはあまりないようだが、それでもMSIEの勝手な振る舞いによって他のソフトが安心して実行できない状況に陥ることには変わりがない。しかも、一度インストールしたMSIEをアンインストールすると更に状況が悪化するのだからタチが悪い。私は自分がメインで使うマシンには決してMSIEをインストールしないことにしているし、人から相談を受けた時にもなるべくMSIEを入れないように勧めている。
まあ要するに、私は「MSIEをインストールしたくないユーザー」なのだ。そして、こう考えるのが良いか悪いかとかいう問題は抜きにして、ユーザーにはこう考え、またそうする権利があると思うのだ。だから、WindowsにMSIEをバンドルするのなら、予めインストールした状態で販売するのではなく、CD-ROMを添付するなどして使いたいユーザーだけが後から自分でインストールするような形にしてもらわなくてはならない。もしどうしてもプリインストールするのなら、MSIEがプリインストールされたモデルとそうでないモデルを分けて販売してもらいたい。
こう書くとほとんど冗談のようだが、Windows98についてはこれが冗談どころではなくなる。MicrosoftはWindows98ではMSIEがデスクトップと融合し、ローカル環境とネットワークの境がなくなると言うのだ。ヘルプを参照する際に自動的にインターネットに接続して当該のWebサイトをブラウズしたり、DLLやドライバの新版を自動的にダウンロードしてWindowsに組み込むという機構もあるらしい。まさに、冗談ではない。そんなことになったらセキュリティ・ホールが何倍にも大きく危険になることは容易に想像できるし、Windowsがクラッシュしたり不安定になったりする原因が何十倍にも増えることはまず間違いない。ユーザーの手間を極限まで省くという意味でそういう方向もアリだとは思うが、少なくとも私はそんなのはごめんだ。
Microsoftさん、お願いです。Windows98にMSIEをプリインストールして出荷するのはやめてください。それがダメなら、せめてデスクトップとMSIEが融合して「いない」状態をデフォルトにして、かつMSIEをマトモにアンインストール出来るようにしておいてください。あああ…。(ほとんど涙声)
…というわけで、私としては米司法省から提訴されたことによってMicrosoftがWindows98出荷時のMEIEとの合体状態を多少なりとも考え直さざるを得ない状況になることを、密かに(でもないか)期待している。
Office97アップデート差分配布に関する問題。これは、MS-Office97のアップデート差分ファイルが、アメリカではWebサイトから無料でダウンロード出来るようになっているのに日本ではこれがなされず、有償(2,000円)でCD-ROMを送付という形でのみ入手可能となっている(ある時期以降にOffice97を買ったユーザーには無償でCD-ROMが送付されている)のが不当だということで、あちこちでユーザーが怒っている(別に訴訟になったわけではない)という問題。
これをしてMicrosoft(あるいは日本のマイクロソフト)を悪魔の使いのように言っている人もいるが、私はそうは思わない。この件に関しては、別にMicrosoftは「悪く」はないと思う。
Microsoftは、ボランティア精神とか社会貢献指向とかいうものをカケラも持ち合わせない上に、企業倫理や体面といったものを重視しない、ひたすら自社の利益のみを追求する会社である。これは、過去の色々な事例から明らかだ。しかし、それは資本主義社会における営利企業として驚くにはあたらないことだ。それを「悪い」ことのように言うのはおかしいだろう。
CD-ROM送付の費用が2,000円では、Microsoftに利益が出るとは思えない。さすがにこれで儲けを出してはシャレにならないということは、Microsoftもわかっているのだろう。では、これで儲けるつもりもないのにどうしてWebサイトからのダウンロードサービスをしないのだろうか。それは、巨大なファイルをダウンロードするにあたってのネットワークでのトラブルや、差分更新のやり方に関する問い合わせが殺到するからである。Microsoftは、それらのサポートに人員や経費を割きたくないのである。それではどうしてアメリカではダウンロードサービスが行われているのか。それは、行わないとユーザーからの苦情がもっと殺到するからである。つまり、アメリカで行われているダウンロードサービスが日本で行われない理由は、「アメリカの方がインターネットが浸透している」ことと、「日本のユーザーがあまり文句を言わない」ことの二つだと私は考えている。後者に関しては、「つまり、日本のユーザーはナメられているのだ」と言う人もいる。確かにそういう言い方も出来ると私も思う。
日本のユーザーは、もっと個々にしっかりとした知識と意識を持って、メーカーに対してどんどん意見するようにしなくてはいけないだろう。インターネットは、そのための手段も提供してくれるのだから。
最後に、ちょっとオマケ。
今月号(1997年11月号)の『日経バイト』誌に載っているジェリー・パーネル氏のコラム『混沌の館にて』に面白い記述を見つけた。
メールで送られて来るWord文書ファイルを読むときには、WordPadを使うのがいいというのだ。一々重いWordを起動しなくても内容を確認できるので便利だということもあるが、更に大きなメリットがある。それは、マクロウィルスが動作しないこと。
最近、WordやExcelのマクロを利用したマクロウィルスによる被害が急増して問題になっていることでもあるし、これは確かに納得である。みなさん、メールなどで送られて来たWord文書は、まずWordPadで見ることにいたしましょう。
…って、そもそもWord文書がメールでやりとりされること自体が邪悪なんだとは思うんだけれどね。
そう言えば、Word文書を読むためのビュワーがMicrosoftから無償提供されているということを聞いたことがあるけれど、これはどうなのかな? 私はそういうものが必要になったことがないから、試すつもりもないけれど。