Windows98の発売がいよいよ近づき、パソコン関係のマスコミは大いに盛り上がっている「振り」をするのに忙しいようだが、ユーザーが全く盛り上がっていないことは誰の目にも明らかだ。原因は沢山あると思う。Windows98はWindows95と比べてあまり大きく変わっておらず、WindowsNT5.0へ向けての「つなぎ」製品という色が濃いこと、Windows95発売の時に手ひどく騙されたことを、さすがに(笑)まだユーザーが覚えていること、ソフトのバージョンアップで金を取られることにユーザーが辟易して来ていること、などなど。米司法省がMicrosoftを提訴した件の間抜けな推移も、これに拍車をかけているだろう。更に日本では(世界ではどうか知らない)パソコン自体の売り上げが落ち込んでおり、「すわ平成不況がパソコン業界にまで?」とバカなマスコミが盛んに取り沙汰しているような状況だ。
パソコンの売り上げ不振に関しては、もちろん不況の影響もあるだろうけれど、それよりも単にユーザーが買う気をなくしているだけなんじゃないかと私には思える。世の中にある全てのメディアを巻き込んだインターネットブームとWindows95フィーバー(笑)でぶち上げた「これからは絶対必要、使えなきゃダメ」という根拠も理屈もへったくれもない強迫観念がここへ来てようやく一段落して、もはや「モバイル」とか「SOHO」とかいう流行語を作っただけではユーザーが動かなくなって来ているのだ。オフィスへのWindowsパソコン導入が進んで一般の人がそれに触れる機会が増え、「実際に何が出来るのか」が理解され始めてしまっている(笑)ということもある。要するに、もはや「とにかく買え」ではダメな時代になったのだ。
それなのに、NECは「新世界標準」とかいうわけのわからないコピーでNXの出足をくじいてしまうし、富士通は「健さん」のCMが飽きられて目立たなくなっているし、IBMは相変わらず何を考えているのかよくわからないし、Appleは互換機もNewtonも捨てちゃってRhapsodyはどこ行った状態だし、Compaqの1,000ドルPCは円安だから日本では10万円を切らなくてインパクトがないし、WindowsCE2.0のH/PCは広告投資が全然足りないし、とにかくもー、これでは売れなくて当然だ。SONYのVAIO505なんかはしっかり売れているんだし、まだまだ実用機器とは言い難い各社のデジタルカメラもちゃんと売れているんだから、これは不況のせいには出来ないだろう。
しかし、そんな中、ここ一ヶ月で私は個人的に「今度パソコンを買いたいと思うんですけど」という相談を4件も受けた。相手は全て女性で、これまで個人的にパソコンを使ったことのない人ばかりだ。私と個人的につき合いのある男性はほぼ全員既にパソコンユーザーだという事実があるのであまり一般的な見方は出来ないが、それでもこれは異常事態と言える。しかし、私は2件目の相談を受けた時点で、もうその原因に思い当たった。
「そう言えば最近、TVドラマでもやってますよねえ。」
「え、あはは、そうですねぇ。」
そう、竹野内豊主演のTVドラマ『WITH LOVE』である。もし万一御存知ない読者がいた場合のために一応補足しておくと、このドラマのストーリーは一通の間違いメールから始まる恋愛を描いたもので、その後も電子メールが大きな役割を持つので、当然ながら劇中には再三再四パソコンでメールをやりとりする場面が出て来る。主演の竹野内豊はモデル出身の美形二枚目スターとして現在若い女性に絶大な人気を博していることでもあるし、これは確かにインパクトが大きい。「映画『タイタニック』の制作に使われたマシン」とか「『タイタニック』の制作を支えたデータベースソフト」とかいう宣伝文句がこのところ目につくが、「ドラマ『WITH LOVE』に登場したメールソフト」という広告をEudora Proのメーカーが出したりもしているらしい。…とか言いつつ、実は私はこのドラマを全く観たことがない。全く観たことがなくてもこのくらいの情報が入って来てしまうのだから、実にもって大したものなのである。
私に相談して来た4人にそれぞれ『WITH LOVE』のことを言ってみたところ(ヤな性格だね我ながら)、全員が同じように「エヘヘ、その影響もちょっとあるかも」と認めた。ちょっとあるかもしれないと認めたということは、実際にはかなりあるということだろう(笑)。
これは恐るべきことだ。一ヶ月の間に私の周りでパソコンユーザーが4人も増えたということは、かつて一度もなかったと思う。この潜在パワー余す所なく引き出せれば、パソコン不況などぶっ飛ぶのではないだろうか。メーカー各社は早急に広告戦略を根本から見直し、早速この夏から反町隆史を主演に据えた、主人公が会社を辞めて独立、モバイルパソコンとインターネットを駆使して各地を飛び回りつつバイヤーとして成功するというストーリーの恋愛ドラマ(笑)を提供しなくてはいけない。もちろん、CMはWindowsCE関連をこれでもかと流す。念のため、私は100%本気で言っている。
結局のところ、パソコン関係のマスコミがあの手この手を駆使して束になっても一本のトレンディ・ドラマ(ってのも死語だろうけど)の足下にも及ばないし、ビル・ゲイツやスコット・マクネリやスティーブ・ジョブスがどんなパフォーマンスを見せようと竹野内豊にはかなわないのだ。色んな意味でため息の出る現実ではあるけれど、どこか痛快な気もしてしまうのは、私だけだろうか(笑)。