ショートショート作品 No.003

『製品』

 俺は原隊からはぐれてしまった様だった。
「はぐれたと言うより置き去りにされたという感じだな。」
「しかしまてよ、俺の乗っているこいつはTXだぜ。」
「置き去りになんかされる筈がない。」

 日本とアメリカの間で局地的な戦闘が始まってから3ケ月がたっていた。日本の人々の核ミサイルへの恐怖も、いいかげん薄らいで来てしまった様だった。アメリカは全くそんなそぶりを見せず、ただただ局地戦に適当な戦力を投入してくるだけだった。両国の間で何か密約がかわされているんじゃないか、なんてまことしやかな噂が世間では流れている様だったが、そんな事は俺の知った事じゃなかった。
「俺は日本のエース・パイロットだ。」
「命令され目の前の敵を叩く。」
「これだけだ。」
 だが、この日ばかりはそういう訳にはいかなかった。何しろ最新兵器、TXをまかされていたんだ。 世界初の人型兵器。しっかりデータを集めなきゃならない。
「それにしても一体全体、原隊のやつらはどこへ消えちまったんだ?」
 あたりを見回してもひとっこひとりいやしなかった。
 と、突然レーダーが警戒音をがなりたてた。識別信号を出していない。
 敵だ。
「正面の森だな。」
「よし、いっちょうこいつの実力を見せてやるか。」
 トリガー・ボタンを押す。これだけで新型ミサイルが敵さんめがけて一直線だ。
 白い尾をひいてミサイルが二発、正面の森に突入した。
 爆発。
 敵の反応は・・・ある!
「はずれた、いや、よけられたんだ!」
「こんな運動性を持つ戦車があるはずがない。」
「まさか・・・。」
 木をかきわけて姿を現わしたそれは、まさかのTXだった。
 俺の乗っているこいつとはだいぶ形が違うものの、確かに人型をしている。もちろん、アメリカのマークは付いていた。
「しかし一体・・・。」
 考えている暇はなかった。ビーム攻撃を受け、左のアームがひじのあたりからふっ飛んだ。
「やられる!」
 俺は思い切りペダルを踏み込み、敵に向かって突進しながら、残った右アームにビームサーベルを抜かせた。
 敵もサーベルを抜き、俺めがけて振りおろした。
 しかし、そこに俺はいなかった。左アームをなくしたバランスのくずれを利用して、素早く相手の後ろにまわり込んでいたんだ。
 俺は一気に敵の背中を貫いた。敵はもんどりうって倒れ、メインカメラのあたりから黒煙をあげて動かなくなった。パイロットは即死だろう。
 爆発しそうにない事が分かると、俺は敵の機体を調べに行かずにはいられなかった。
 メインカメラからはみ出しているイコライズ・ユニットを見て俺はがく然とした。「MADE IN JAPAN」の文字が見てとれたからだ。
 俺は敵機のコクピットをこじ開けにかかった。中から日本人の死体が出てこない事を俺は祈った。
 ガコンという音とともにコクピットが開いた。
 中で死んでいるパイロットの顔は・・・俺の顔だった。
 俺は、そこで気を失ったのかもしれない。体が動かず、何も見えなかった。
 ただ、まわりじゅうから近付いてくる日米合同軍技術班の戦車のキャタピラの音は聞こえた。
 俺のTXに積んである戦闘記録ディスクを取りに来るんだと俺は思った。最新のロボット技術と、最新のクローン技術の成果を確かめるために。


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