ショートショート作品 No.010

『おーさむ小僧』

「や、どーも。お暑うおますなァ。」
と、汗をふきふき、それは言った。
 やっぱりだ。やっぱり変なのがいやがった。
 今、俺の目の前に座っている、モコモコの、真っ白い、のっぺりしたやつが、妖怪なのか何なのか知らないが、こんなやつでもいなかったら、家の中が外より寒いなんて事がある訳がない。
「お前は何だ。妖怪か?」
俺が聞くと子犬ぐらいの大きさのそれは、短い足ですっくと立ち上がって答えた。
「わては<おーさむ小僧>だす。家の守り神でんがな。」
「家の中をこんなに寒くしておいて、守り神もないもんだ。廊下を歩いてて息が白いのはうちだけだ!」
「いやー、押し入れの中がえらい暑かったもんやさかい、ちっとばかし家の温度を下げさしてもらいましてん。」
「俺は寒いんだ!夏までどっか行っててくれ。」
「そーいう訳にはいきまへんのや。一度出てまうと、二度と同じ家には住み付けまへんのだす。」
「難儀なやつだな。」
「えらいすんまへん。」
 俺は、何となくそれを憎めなくなってきたが、やはり寒いのは我慢できない。
「とにかく、お前がいると、こっちは迷惑なんだ。悪いが出てってくれ。」
「せやけど、わてかて一応守り神なんでっせ。」
「そうかもしれないが、やはり寒いのは迷惑だ。」
「よろしおま。あんさんがそこまで言わはるんなら、どっかよそへ行きますわ。えらいお世話んなりました。」
 そう言うと、<おーさむ小僧>は玄関から外へ出た。
 とたんにそれは小山ほどの大きさになった。
 俺が事態に気が付きはっとした時にはもう手遅れだった。屋根裏に住む<あっちっち小僧>がハメをはずして猛威をふるい、俺の家を焼きつくしていたのだ。


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