ショートショート作品 No.014

『趣向』

 今僕は、現在の日本の政治についての講演を聞いている。講演者は、山川三郎。彼は、おおよそ評論家と名の付く肩書きはみんな持っている。政治評論家、経済評論家、軍事評論家・・・奥さま料理教室の、晩のおかず評論家でもある。
 僕は知り合いのつてで彼の次の講演の約束を取り付けた帰りに、ついでに評判の講演を実際に聞いてみようという事で、ここにいるのだ。彼の講演は面白くて解り易く、ためになると評判で、どこへ行ってもひっぱりだこだ。それもそのはず、彼はその都度色々な趣向をこらして、聞く者を飽きさせないのだ。
「エー、派閥だなんだとよく言いますが、あんなもなぁサラ金の看板みたいなもんでして・・・」
 どうやら今日は落語風らしい。会場から笑い声があがる。
 聞いた話によると、今までの彼の講演には、浪花節風、ニュースキャスター風、長島茂雄のモノマネなんていうのもあったらしい。
 今日の講演が終わり、僕は彼に挨拶をしに行った。
「素晴らしかったですよ、先生。安心しました。これなら、私の所での講演も大成功まちがいなしです。」
「いやぁ、君、そう言ってもらえると私もやりがいがあるというものだよ。君の所ではひとつ、とっておきの趣向でやろうじゃないか。」
「ありがとうございます。これで私の株もあがります。」
 当日、僕もとっておきの趣向とやらを楽しみにしていたのだが急用が出来てしまい、僕が会場についた時にはもう講演は終わっていて、バラバラと人が帰って行く所だった。
 それはいいんだが、おかしな事に帰っていく人達がみんな不満の表情をうかべている。話を聞いてみると、彼らは口をそろえてこう言った。
「解り易くて面白くためになるという評判を聞いて来てみたが、とんでもない話だ。全然つまらないし、なんだか奥歯に物のはさまった様な話ばかりで、何を言っているのかまったくわからない。あれでためになる訳がない。」
 僕は大慌てで山川氏の所へとんで行き、抗議した。
「先生、一体どうしたというんです。今日の講演を聞いた人たちの評判は最悪です。」
 彼はため息をついて、こう言った。
「いやぁ、君、今日やった竹下首相のモノマネは、受けが悪かった様だね。」


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