必死で逃げる一人の男を、もう一人の男が追っていた。近頃ではとくに珍しくもない光景だ。大体の図式は、今や誰でも知っている。追っ手の男は賞金稼ぎ。追われている方は…。
アンドロイドたちが一体どこからどうやって現れ、そしてどんな方法で人間とすり変わるのかは、誰にもわからなかった。ただ、人間のふりをして生活するアンドロイドの数が徐々に増えていることには、誰もが気付き始めていた。
政府は当初こそ秘密裏に事態の全容を解明するために手を尽くしたものの、やがて全くらちが明かないことを思い知らされ、遂には投げ遣りな対応に出た。アンドロイドに賞金をかけたのである。アンドロイドを発見、捕獲し、その「身体」を政府に提出したものには、税抜きで多額の現金が支払われる。「身体」は機能状態であることが望ましいが、破壊されていても可とする。
かくして、街のあちこちでアンドロイド狩りが行われ、賞金稼ぎを自称する輩がぞろぞろと現れることになった。
そして、今も。
逃げる男の行き先は、袋小路になっていた。脂汗を流して振り返り、無情な壁を背にして立ち尽くす男。追っ手の男はその様子を見て、ホルスターからレーザーマグナムを抜き出しながら、ゆっくりと間を詰めていった。
「ま、待ってくれ、冗談じゃない。おれはアンドロイドなんかじゃないよ。」
壁を背にした男はうろたえた声でそう訴えた。
「いまさら見苦しいぜ。テストの結果は明らかだ。観念して、機械仕掛けの天使の夢でも見るんだな。」
追っ手の男は銃を構え、なおもゆっくりと間を詰める。銃口はピタリと相手の額の真ん中を向いていた。
「そ、そ、そんなばかな…。さっきのあれが、テ、テストだなんて…。」
今や、銃口は哀れな男の目と鼻の先まで来ていた。
追っ手の男は、ニヤリと口元をつり上げて言った。
「アンドロイドに笑う機能がないってことは、周知の事実だ。知らなかったとは言わせないぜ。…あばよ。」
追い詰められた男は、最後の気力を振り絞って叫んだ。
「あんたの…、あんたの言ったギャグがつまんなかっただけじゃないか!」
追っ手の男は躊躇なく引き金を引いた。