大勢の見物人と報道の目が見守る中、発射準備の完了したロケットは出発の号令を待ち、うっすらと白煙を吹き上げていた。TVカメラの前ではレポーターが何時間も前からひっきりなしにしゃべり続けている。予定時刻はもうすぐ。その場を包む緊張感は徐々に膨らみつつあった。
搭乗口に続くタラップに、人影が現れた。ワッとどよめく観衆。レポーターの声も一段と大きくなる。
見るからに屈強そうな警備員に両わきを抱えられ、引きずられるようにタラップを進む宇宙服姿の人物は、この期に及んでもまだじたばたともがいていた。
「いやだ、はなせ、畜生、おれはいやだ、殺すならひと思いに殺せ!」
その様子を見て観衆はさらに盛り上がり、レポーターも大喜びでテンションを上げる。
「いやだーっ!やめて、助けて、俺が悪かっ」
バタン。宇宙服の人物の叫びは、ロケットの扉の向こうへ消えた。役目を終えた警備員は誇らしげに手を振りながらタラップを引き返し、やがてそのタラップもロケットから離れた。
カウントダウンが始まり、それが二桁になると見物人たちも声を合わせた。一桁になると、レポーターやTVの前の視聴者たちもそれに倣った。
「…ワン、ゼロ!」
エンジンは大きな炎を上げ、ロケットは意外にゆっくりと持ち上がり、空を登っていった。観衆から、そして世界中から大歓声が上がった。TVレポーターは「バンザイ」をしていた。
一九九九年八月以降、「地球脱出用ロケット」で宇宙にぶっ飛ばされた「予言者」はこれで三人目である。間抜けな資産家が勢いで建造してしまったロケットはまだ地球のあちこちにいくつもあるし、逃げ回っている「予言者」はそれ以上に沢山いる。しばらくはお祭り騒ぎが続きそうだ。