僕は、ピイを殺してしまった。
ピイは、僕の手の中で動かなくなった。河原の空き地の隅に僕が作った小屋の傍らで、僕は声を出して泣いた。中学生にもなってこんなふうに泣くことがあるなんて、思ってもみなかった。
そもそも、中学生にもなって親に隠れてヒヨコを飼うなんていうこと自体が恥ずかしかったから、僕はこのことを誰にも言わなかった。でも、今となっては誰かに言っておけば良かった。この悲しみを誰かと分け合うことが出来たなら、どんなにいいだろう。
いや、やっぱりそうは行かないんだ。もし誰かがこのことを知っていたら、その人は僕を責めるだろう。だって、ピイは僕が殺してしまったんだから。
ピイは五匹いるヒヨコたちの中で一番のノロマだった。だから、一番先に見分けがついて、一番先に名前がついて、一番可愛かった。だけど僕は馬鹿でトンマだった。今日僕が餌をやりに来てみると、ピイは他のヒヨコたちに散々踏まれて、もう虫の息だった。昨日餌をやった時に、網の扉にピイの足がはさまっていることに、僕は気がつかなかったのだ。なんて馬鹿なんだろう。昨日は買ったばかりのゲームで早く遊んでみたくて、気が急いていた。なんて馬鹿なんだろう。
あたりが暗くなりはじめた頃、僕は泣きやんだ。妙に気持ちが落ち着いた。悲しさや苦しさは、全然弱まっていないのに。これはとても辛いことだった。僕は黙って河を見て、考えた。そうするしかなかったから。
やがて僕は心を決めた。ピイを食べることにする。
僕は前々から考えていた。動物が動物を殺していいのは、自分の身を護る時と、殺した動物を食べる時だ。だから僕は、僕が殺したピイを食べることにした。そうしなければいけないと思った。
羽をむしる時、最初はピイが痛がっているような気がしたけれど、すぐに平気になった。自分でも不思議だった。僕は煙草は嫌いだけれど、友達の手前ライターは持ち歩いているから、小さなたき火はすぐに起こせた。その火でピイを焼いた。
かじりつくのに、勇気を奮い起こす必要はなかった。噛んで、飲み込むことにも、躊躇はなかった。だけど、僕はすぐにピイを吐いてしまった。
僕は這いつくばって、むせて咳き込んで、泣いているわけじゃないのに、涙が出た。悲しくて、申しわけなくて、みじめだった。
でも、僕が吐いたピイは、もう何か別のものに変わっているように見えた。僕はほんの少しだけ、救われた気がした。