【本の感想】

『かまいたち』

 マスターネットのミステリのボードなどで話題になったことをきっかけに、以前から名前はよく耳にしていた宮部みゆきの作品を読んでみようと思った。宮部みゆきはかなりの人気作家であるらしく、複数の書店で沢山の文庫本が平積みになっていた。作品のモチーフは多岐に渡っているようで、実に色々な表紙が並んでいる。ほとんど予備知識もないことだし、適当に表紙の雰囲気が気に入った一冊を手に取ってみた。どうやら時代ものの短編集らしい。時代ものには個人的にあまり馴染みがないことだし、ちょっと面白いかなと考えて、私が読む最初の宮部みゆき作品は、この『かまいたち』にすることにした。
 とりあえず一冊読み終わっての率直な感想は、「やや期待外れだったが、いい作家に出会ったような気もする」という、微妙なものになった。
 期待外れだったのは、正直言ってあまり心を動かされる作品がなかったこと。どれもこれといって新鮮味もなく、強烈なインパクトがあるわけでもなく、しみじみと心に残るというわけでもなく、何かを考えさせられるというようなこともない、とくにどうということのない作品が並んでいるという印象だった。
 いい作家に出会ったような気がするというのは、作者の物語に対する姿勢というか嗜好というか、そんなようなものが私の個人的な好みに合っているように感じたから。宮部みゆきという作家は、非常に生真面目で律義で、しっかりとした予定調和を織りなす物語を好んで書く作家のように思えた。それは私が尊敬してやまない藤子F不二雄の作品にもやや通ずるところがあり、私の嗜好とピッタリ一致する。

[★ ネタバレ部分を呼び出す ★]

 収録作品はそれぞれに少しずつ趣が違うものの、私にはどれも「お手軽路線のエンターテイメント」という印象だった。それは必ずハッピーエンドで結ばれるからということではなく、モチーフや筋立てがありがちで安易だからだ。
 上にも書いたように、私はしっかりとした予定調和が好きだ。ここで言う「しっかりとした予定調和」というのは、ラストでは全てのことが収まるべきところにキチンと収まり、心から納得できる形でハッピーエンドを迎えるという、一つのカタルシスだ。一見簡単なことのように思えるかもしれないが、これを味わわせてくれる作品(作家)というのは意外に少ない。ハッピーエンドを迎えてもどこかに納得できない部分があったり、「あれはどうしちゃったの?」という要素が残ったりすることが多いのだ。宮部みゆきという作家は、この「しっかりとした予定調和」を味わわせてくれる数少ない作家の一人なのではないかという気がしている。しかし、予定調和を重んじるからと言って題材やストーリーまで「お約束」ばかりではいささかゲンナリしてしまう。読みやすい簡潔な文体で、若々しいキャラクターによるお約束のストーリーがトントンと進んでいく様は、角川スニーカー文庫や集英社コバルト文庫あたりに入っていても違和感のない印象だ(スニーカー文庫やコバルト文庫を沢山読んでいるわけではないので、あまり強いことは言えないが)。
 何にしても、宮部みゆき作品をもう少し読んでみようかという気にはなっているので、とりあえずは次に読む作品に期待したいと思う。

1997/07/21
『かまいたち』
宮部みゆき著
新潮文庫(み22-6)

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