『事象の地平』のインタビューの中で川原泉氏が好きな作家の一人として清水義範氏の名前を挙げていたので、試しに買ってみた。とりあえず書店の角川文庫のコーナーで名前を見つけ、一番左にあった本を手に取ったらこれだったというわけだ。
読んでみての感想は、一言。面白い。
もう、ムッチャクチャに面白くて、全人類に読んで欲しいと思うくらいに面白くて、他に言葉が出て来ないから一言しか言えない、ということではない。ただ単純に、率直な感想としての言葉が「面白い」という一言しか出て来ないのだ。もう一言付け加えるなら、「かなり面白い」とでもなるかな。…なんか、真剣に読んでくれている人から殴られそうな気がしてきたが。
この本は11編の作品からなる短編集で、その多くはかなり楽しませ、笑わせてくれる。売り文句が「抱腹絶倒」とか「必笑」とかになっていても、実際に笑わせてくれる作品というのは希なので、これだけでもかなり凄いことだと思う。面白いアイディアにも富んでいるし、文章は簡潔かつ明晰で非常に読みやすく、加えて非常に気さくな調子だ。結構気軽に「ー(棒引き)」が使われていたりする。もちろん私なんかもそうなのだし驚くにはあたらないのかもしれないが、文壇に認められた作家でもこういう文章を書く人がいるんだなあと、妙な感慨に打たれてしまったりする。
印象としては、北杜夫氏のエッセイ作品に近いような気がする。しかし、私にとっては清水義範氏の作品の方がより身近に感じられ、笑える要素も多いように思える。そりゃー、作者の年齢も書かれた時期もずっと近いのだから、当然と言えば当然かもしれないが。また、北杜夫作品は小説とエッセイとに明確に別れているのに対して、この本に収録されている作品の多くは、どちらとも区別のつかないものが多い。この点に対してはとくに大きな驚きを感じるということはなかったのだけれど、なるほどこういうのもアリなんだ、と大きく納得させられた。実は私もこんなのを書いてみたいと常々思っていたのだ。先にやられてしまって悔しい、などと思うのはあまりに僭越なので、こういうのもアリだと身をもって示してもらったということで、大いに安心することにした。
さて、一読しての感想がどうして「面白い」という一言しか出て来なかったのかと考えると、これはどうも「創造性」や「オリジナリティ」の印象が非常に弱いからのように思える。この本に収録されている作品の多くは文句なく創造性やオリジナリティを持っていると思うのだが、それらはあくまでも読者を楽しませ、笑わせるための手段として使われていて、前面には出て来ないのだ。あくまでも読者を楽しませ、笑わせることを目的として書かれた(ように思える)作品を読んで、その通りに楽しめ、笑えた。だから、「面白かった」という感想しか出て来ないのだ。これはとても潔いことだと思う(もちろん私がではなく、作者がだ)。
清水義範氏の作品には他にどんなものがあるのか全く知らないが、この本に関して言えば、私が知る限りにおいて最も良質な部類の「軽い読み物」であるという印象を持った。もちろんこの印象には私の個人的な嗜好も多分に含まれている。まあ要するに、清水義範作品は私の好みに合いそうだ、ということだ。
そんなわけで、恐らく私はこれから清水義範氏の本を沢山買うことになるのではないかと思う。