フィリップ・マーロウもの長編第三作。なんだかこのシリーズにハマってしまったらしい。
第一作『大いなる眠り』ではただひたすらにカッコよかったフィリップマーロウだが、『さらば愛しき女よ』からこの作品へと読み進んで来て、多少印象が変わって来た。誇り高きカッコよさは相変わらずなのだが、わざわざ人を怒らせるようなものの言い方をしたり、わざわざ自分を追い詰めるような行動に出たりという「わざわざ」加減が目につき始め、何となく「気負い過ぎ」という印象が出て来たのだ。その一方では多少弱気になったような描写があったりと、どうも落ち着かない。私としては少々首をひねりながら読んでいた。だが、この作品を読み終わって、何となく納得出来たような気がする。フィリップ・マーロウとは、つまるところそういうキャラクターなのだ。長編第三作まで来て、人物像が固まって来たというか、充分に描き切られるようになって来たのかもしれない。もちろん、私の読み方が気負い過ぎなのかもしれないが。
正直なところ、私にとってのフィリップ・マーロウものは一から十までフィリップ・マーロウであって、他の要素はオカズやスパイスでしかない。だからとくに感想も出て来ないのだが、一つだけ感じたのは、後の映画やドラマによく出て来るキャラクターやシチュエーションが散見されること。とくにこの作品のマール・デイビスなどは、現在ではある種の典型として存在するキャラクターだと思う。果たしてここに元祖があるのかどうかは私には判らないが、きっとこのシリーズは後の作品に多大な影響を与えているんだろうな、とは思う。
ヒットしているシリーズものというのは多かれ少なかれそういうものだと思うが、このシリーズというか、フィリップ・マーロウには麻薬的な魅力がある。私はどちらかというとシリーズものに弱い性質を持っているらしいが、このシリーズには常にないほど強くハマっている感覚がある。もしかすると、そこにこのシリーズの本当の凄さがあるのかもしれない。