昨年末のコミケ*で売り子をしている時、隣のサークルのメンバーが「ターザンの原作本が面白い」という話をしているのが聞こえて来た。それが何となく頭の隅に残っていたので、新訳改訂版が出ているのを見つけた時に、買ってみる気になった。
これが何というか、意外なほど面白かった。無敵のヒーローたる主人公の冒険物語をこんなに素直に楽しめたのは、実に久しぶりじゃないかと思う。おかしなところや気に入らないところはとにかく全部無視することにして楽しむ、ということではなく、おかしなところやいい加減なところは、そもそも敢えて気にする気にならないように忘れさせてくれるのだ。設定の巧妙さやストーリー展開のパワーと説得力が、単純な読者としての読み方をグングン引っぱってくれる。これぞ冒険活劇、といったところだろうか。だとしたら、最近の娯楽作品は一体なんなんだろう、などと思ってしまったりもする。それくらい、この古典的傑作は魅力に溢れているのだ。
私が一番感心したのは、主人公ターザンの人物としての描かれ方である。この上なく美しく、強く、気高く、たくましく、要するに完璧なヒーローなのだが、そのターザンのちょっとした虚栄心とかやや身勝手な考えとかが、ごく自然に描写されているのだ。それが、「ヒーローにも欠点はある」というような大仰な書かれ方ではなく、「単にそういうもの」として素直に書かれているため、こちらも素直に受け取って、大きな説得力を感じることが出来る。これはむしろ、ちょっと新鮮な感覚だった。
巻末の解説によると、『ターザン』はこの作品から始まって、結局かなり長大かつ荒唐無稽なシリーズになって行ったのだとか。この作品のラストでは必ずしもハッピーでなかった部分が続編ではハッピーな展開を見せるとのことで、基本的にハッピーエンドを好む私としては、ちょっと複雑な心境になってしまう。
この本の解説でも全く触れていないので、シリーズの作品はほとんど翻訳されていないのではないかと思うが、とりあえず次の作品だけでも探してみようか、と、やや迷いながら考えている今日この頃だったりする。