んー…、いや、面白いことは面白かったんだけどね。
やはり何というか、新鮮味がない。使い古されたネタの焼き直しに色々なオカズを加えて練り上げて、どうにか読むに耐えるものに仕上げている、という印象が否めない。他の沢山のベストセラー小説や、ハリウッド映画と同じように。
ショッキングなシチュエーションで発見された美しい女性の変死体の謎を追いかけるサスペンス・ミステリで、主人公は一筋縄でない過去を持ち、そろそろ疲れの見えるタフガイ捜査官。若く美しく有能な捜査官で、主人公と以前いわくのあったヒロインとの恋愛模様を織り込みつつ、有力者から圧力をかけられたりなんかしながらも、文字通り寝食を忘れて精力的に動き回る彼らが暴き出すのは、腐敗、不倫、異常心理、セックス、セックス、ファック、ファック、ファック…。どうしても手垢のつきまくった「売れ線」の要素を作為的にてんこ盛りしているだけのように見えて、ウンザリしてしまう。今時普通、誰だってこんなのには飽き飽きしていないだろうか?
それでもこの作品が読むに耐えるものになっているのは、やはりベストセラー作家たる著者の力量なのだろう。この作品の最大の売りであると思われる、軍隊内部を舞台としたことによる目新しさも、まあまあの効果を上げている。
しかし、どうも気になるのは文章や会話の不自然さだ。場面展開のリズムが悪く、会話はそれなりに気が利いてはいるものの装飾過多で、それでいて妙に理屈っぽい。総じて非常に解りやすくはあるものの、臨場感にはだいぶ欠ける。とくに序盤ではこれがヒドく、何だか意味不明と思える部分まである。果たしてこれが元々の文体なのか翻訳のせいなのかは判らないが、少なくとも会話の不自然な装飾や理屈っぽさなどは、元々のものだろう。こういうのを好む人もかなりいるということを私も知らないではないのだけれど、個人的にはどうしても作為の臭いを強く感じてしまって、受け付け難いものがある。
全体としての印象は、良くも悪くも、ハリウッド映画原作向けの小説だな、というところ。映画の方は観ていないけれど。
この著者の作品を読むのは初めてだが、私の中では「気が向いたら、時間潰しを覚悟で読んでもいい作家リスト」の、キング、クーンツ、マキャモン、他諸々の後に、デミルが加わったという感じだ。だとすると、リストの前の方の作家に未読の作品がゴマンとある以上、デミル氏の作品は二度と読まない可能性も高いということになる。